コロナ禍前の食事宅配はどこに、いつ届いたか――フェニックス都市圏の配達記録を分析
Spatiotemporal patterns of online food delivery services before the Covid-19 pandemic
米国フェニックス都市圏の運転者記録を分析し、コロナ禍前の食事宅配の終了地点が都心部などに集まり、夕方の交通ピークとも重なっていたことを示した研究である。
この論文のポイント
- 2015~2019年の各10月に記録された食事宅配976件を、フェニックス都市圏の553六角形区画で分析した。
- 標本の31.6%は16~19時に配達を終え、区画別の終了件数には空間的なまとまりが見られた。
- 人口・雇用密度などの地区特性と配達件数に関連が見られたが、記録は19人の運転者に限られる。
背景と課題
オンライン食事宅配(OFD)は、アプリなどを通じて飲食店の料理を注文し、配達を受けるサービスである。コロナ禍で利用が拡大した一方、それ以前の配達がどこで、いつ行われていたかを示す記録は限られていた。配達が通勤交通の多い時間帯や地区に重なれば、道路利用や短時間停車を考えるうえで重要になる。本研究はコロナ禍前のフェニックス都市圏について、観測された配達の時空間分布と地区特性の関連を調べた。渋滞や排出量の変化自体を測定した研究ではない。
研究の方法
入力は、運転者向け走行記録アプリSherpaShareがフェニックス都市圏で収集した、2015~2019年の各10月の経路記録65,240件である。業務・私用の区分と運転者による利用プラットフォームの記載から、食事宅配976件を識別した。各件に付いた終了日時と終了地点の座標を用い、地域を、中心から辺までの距離が1マイルの六角形553区画に分けて件数を集計する。観測・分析の単位は注文者ではなく区画であり、目的変数は各区画で記録された配達終了件数である。説明変数には住民の年齢構成、世帯の車保有やインターネット契約、人口・雇用密度、バー・醸造所の数、道路網、ライトレール駅から半マイルの範囲に含まれる区画面積の割合などを用いる。国勢調査系の人口・世帯データと雇用データは、元の地理単位から面積に応じて六角形へ配分した。
まず、区画別件数を説明する負の二項回帰を推定する。これは件数のばらつきが平均を上回る場合も扱える方法で、論文の式では、地区特性に係数を掛け合わせて足した値を指数変換し、期待件数につなぐ。係数が正なら、ほかの変数が同じ条件で、その特性が大きい区画ほど期待件数が多いという関連を表す。変数選択では、件数との単純相関の絶対値が0.1を超える候補を残し、候補同士が強く相関する場合は件数との関連が弱い方を除く。続いてLassoという、係数に罰則をかけて変数を絞る方法と、変数を順に除く操作を使い、解釈を助けるカテゴリ変数も加えた。ただし、地区間の交絡をすべて取り除く手順ではない。
次に、モランのIという指標で、近隣区画の件数が空間的にまとまるかを確認する。そのうえで、境界または頂点を共有する六角形を隣接区画と定め、空間ダービンモデルを推定した。論文に示された式は、自区画の特性に加え、隣接区画の配達件数に空間係数を掛けた項と、隣接区画の特性にそれぞれの係数を掛けた項を含む。隣接区画との関連を組み込む点が先の回帰との違いである。空間項も有意性を見ながら絞り、区画特性と件数の関連を示す推定値を得る。これらは配達が集中する地区を検討する材料であり、個人の注文傾向や特性を変えた場合の因果効果を示すものではない。
この研究の新しさ
従来の個人・世帯への利用頻度調査とは異なり、運転者の記録に含まれる複数プラットフォームの配達終了地点と時刻を扱った点が特徴である。さらに、地区自身の特性だけを見る回帰に加え、隣接地区の件数や特性を含むモデルで空間的なまとまりを検討した。コロナ禍前の配達を考える手掛かりになるが、記録された件数は地域全体の配達件数を表さない。
従来研究との違い
論文が紹介する先行研究には、回答者の属性と利用頻度を調べた調査や、別都市の地区別配達件数を分析した研究がある。本研究はフェニックス都市圏の終了地点を同じ大きさの区画に集計し、地区の立地との関連に焦点を当てる。空間項を含まない負の二項モデルと比べると、最終的な空間ダービンモデルでは、隣接地区の雇用密度、3台以上の車を持つ世帯の割合、ライトレール駅周辺面積の割合にも統計的な関連が示された。対象都市、資料、観測単位が異なる先行研究との予測精度の優劣を示す比較ではない。
結果と評価
記録された976件のうち、16~19時の夕方の交通ピークに終了した配達は31.6%だった。終了地点はフェニックス中心部、サウススコッツデール、テンピ北部などで目立ち、553区画のうち1件以上記録されたのは130区画だった。区画別件数のモランのIは0.30で、空間的に無作為に分布するという仮定に対する検定はp<0.001となり、件数に空間的なまとまりが見られた。
最終的な空間ダービンモデルでは、自区画の18~44歳の住民割合、黒人住民割合、インターネット契約世帯割合、人口・雇用密度、バー・醸造所の数が配達件数と正の関連を示した。ライトレール駅から半マイルの範囲に含まれる面積割合は負の関連を示した。最終モデルと空間項を含まないモデルの尤度比検定では、前者の適合が良かった(検定統計量33.20、p<0.001)。これは標本内のモデル比較であり、将来需要の予測性能を検証した結果ではない。
限界・注意点
【著者が述べる限界】記録は19人の運転者によるもので、地域の配達の一部にとどまる。アプリを使う運転者の勤務時間や営業範囲への偏りが、観測された場所と時刻を左右しうる。また、地区単位の属性から注文者個人の行動は推論できない。【編集上の検証事項】対象は各年の10月に限られ、記録件数は2018年10月の426件から2019年10月の45件へ減っている。この増減を地域全体の普及率の変化とみなさず、他の月やデータ源、現在の状況でも分布が成り立つか確かめる必要がある。
現場への応用案
【編集上の提案】夕方の配達と通勤交通が重なる地区を、道路の混雑だけでなく短時間停車の観点からも取り上げられる。中心部と周辺部を対比する際は、地図に示す「配達件数」が運転者向けアプリで観測された終了件数であり、地域全体の需要や発生した交通量そのものではないと明記したい。
現場で確かめるには
【編集上の導入時の検証案】短時間停車場所や自動車以外の配達手段を検討するなら、まず現在の複数事業者・多様な配達員の記録で、時間帯別の発着地点と移動手段を確かめる。そのうえで、路上停車、交通量、走行距離を施策の前後や比較地区で測り、需要の変動と施策の効果を区別して評価する。本論文だけから、停車場所の整備が渋滞を減らすとは判断できない。
解説は原文の要旨・本文の確認範囲に基づきます。AIで作成し、同じモデルで原文との照合を行っています。全記事の人手による校閲は完了していません。「現場への応用案」「現場で確かめるには」は編集上の検討案です。
