私立学校の通学は車中心か――豪州南東クイーンズランドで公私を比較
Is private-schooling problematic for transportation? Evidence from Southeast Queensland, Australia
南東クイーンズランドの通学調査では、私立学校の児童・生徒は公立学校より徒歩・自転車の割合が低く、距離などを考慮しても学校種別との関連が残った。
この論文のポイント
- 通学トリップの目的地を学校所在地と照合し、公立・私立に分類して分析した。
- 徒歩・自転車の割合は公立16.9%、私立7.4%で、自家用車の割合の公私差は統計的に有意ではなかった。
- 距離などを考慮した回帰分析でも、公立学校と徒歩・自転車通学の間には、自家用車を基準とした正の関連が残った。
背景と課題
オーストラリアでは私立学校への就学が広がる一方、子どもの徒歩通学は減り、車での送迎が増えている。私立学校は広い範囲から児童・生徒を集める傾向があり、自宅から遠い学校への通学は徒歩や自転車を選びにくくするかもしれない。ただし、通学手段には距離だけでなく、年齢、世帯の車の保有状況、自宅や学校周辺の環境も関係する。本研究は、公立・私立で交通手段の割合と手段別の距離を比べ、これらの要因を考慮した後にも学校種別との関連が見られるかを調べた。
研究の方法
観測単位は、2017~2019年の南東クイーンズランド交通調査に記録された子どもの通学トリップである。各記録には目的地の緯度・経度、通学距離、主な交通手段などがある。「主な交通手段」は調査側の優先順位で一つに決められ、車と公共交通を併用した場合は公共交通に分類される。研究者は目的地を2018年の学校所在地データにある最寄りの学校へ割り当て、公立・私立の区分を付けた。近接する学校が複数ある場合も最寄り校を採用した。特別支援学校の児童・生徒と、異常に長い距離の5件は除外した。回帰分析の観測数は3,699件である。本文には当初の人数と分析用の人数の両方が示されるが、その差の全内訳は明示されていない。
次に、学校を中心とする半径400メートルを周辺環境の参照領域として道路種別ごとの延長などを集計し、自宅周辺についても環境指標を用意した。公共交通のサービス水準は、2019年の運行データから求めた停留所の毎時発車本数を基に表す指標である。公私別に各手段の割合を二標本の比率検定で、手段別距離の中央値をMoodの中央値検定で比較した。中央値は距離を順に並べた中央の値で、極端に長いトリップの影響を受けにくい。
最後に、多項ロジット回帰で、通学手段と学校種別との関連をほかの変数と併せて推定した。目的変数はスクールバス、公共交通、徒歩・自転車、自家用車の四区分で、自家用車を比較の基準とする。説明変数には学校種別、通学距離、年齢、性別、世帯人数、保有車両数、自宅・学校周辺の環境指標を使った。強く相関する学校周辺の公共交通サービス水準や人口密度などは最終モデルから外した。結果の相対リスク比は、ほかの投入変数が同じとき、各手段の「自家用車に対する選ばれやすさの比」が説明変数の変化に伴い何倍になるかを表す。例えば通学距離の値なら、1キロ長い場合との比較に用いる。これは手段を選ぶ確率そのものではなく、学校種別の因果効果も示さない。
この研究の新しさ
家庭の交通調査で通学先の公私区分が直接記録されていなくても、目的地と学校所在地を空間的に照合すれば区分を付けられる。本研究はその方法を用い、交通手段の構成比だけでなく、各手段で移動する距離も比較した。さらに、通学距離や自宅・学校周辺の環境を含む分析につなげた点に特徴がある。
従来研究との違い
記述分析では、徒歩・自転車の割合は公立16.9%、私立7.4%で、差は統計的に有意だった。スクールバスは公立6.5%、私立12.5%である。一方、自家用車は公立72.4%、私立74.5%で、割合の差は有意ではなかった(p=0.11)。自家用車での通学距離の中央値は公立3.43キロ、私立5.88キロで、差は有意だった。徒歩・自転車の中央値は公立1.02キロ、私立1.03キロとほぼ同じである。公共交通とスクールバスでも、私立の距離の中央値が公立より長かった。
結果と評価
回帰分析では、距離や投入した世帯・周辺環境の変数が同じ場合、公立学校の児童・生徒が徒歩・自転車を自家用車に対して選ぶ相対リスク比は、私立学校を基準として1.50だった。これは「公立の徒歩・自転車通学率が私立の1.5倍」という意味ではない。距離が1キロ長い場合の徒歩・自転車の相対リスク比は0.30で、距離との関連も大きい。学校種別と公共交通の関連は調整後に有意でなく、スクールバスとの関連も5%の有意水準には達していない。提示されたモデルの観測数は3,699件、McFaddenの擬似決定係数は0.275である。これらは観測された関連を示す結果であり、私立学校が車利用を増やしたことや渋滞を生んだことの直接的な検証ではない。
限界・注意点
【著者が述べる限界】交通調査は一日の記録で、普段の通学を代表するとは限らない。自宅位置は匿名化のため近傍に置き換えられ、距離は最短経路から計算されるため、実際の経路と異なりうる。保護者の送迎後の移動、自転車の保有、保護者の考え方も十分には把握できない。居住地の選択など未観測の要因が残るため、学校種別と手段の因果関係は特定できない。著者は渋滞への直接的な影響をモデル化しておらず、地域固有の道路・公共交通の配置を踏まえると、他地域への一般化にも追加調査が必要としている。
現場への応用案
【編集上の提案】学校種別ごとの「車の割合」だけでなく、手段別の通学距離を並べて伝えたい。車の割合の公私差は有意ではない一方、車で通う距離の中央値には差があるためだ。ただし、中央値の差を地域全体の車両走行距離や排出量の増分に換算したかのような表現は避ける。
現場で確かめるには
【編集上の検証案】別の地域で調べる際は、まず通学先の照合結果を学校記録などで確認し、近接校への誤割当てを点検する。そのうえで公私別・手段別の割合と距離を再集計し、年齢層や周辺環境によって関連が変わるかを調べたい。送迎後の保護者の移動も把握できれば、車両走行距離や学校周辺の混雑への影響を別途検証できる。
解説は原文の要旨・本文の確認範囲に基づきます。AIで作成し、同じモデルで原文との照合を行っています。全記事の人手による校閲は完了していません。「現場への応用案」「現場で確かめるには」は編集上の検討案です。
