鉄道利用率だけでは決まらない商業施設の集積――日本69都市の比較
On the empirical association between spatial agglomeration of commercial facilities and transportation systems in Japan: A nationwide analysis
日本の69市では、商業施設の集まり方と交通手段の関係が、市の面積などによって異なっていた。
この論文のポイント
- 69市について、学校・公民館間の平均移動時間を商業施設間の平均移動時間で割り、集積指数を算出した。
- 決定木では面積が最初の分岐となり、面積が小さい側の群は鉄道利用率が比較的高くても集積指数が低かった。
- 自動車利用率が最も高い群では沿道立地の割合も高かったが、集積の原因は特定されていない。
背景と課題
商業施設が近くに集まる理由として、論文は三つの仕組みを挙げる。「マッチング」は消費者が好みの商品を見つけやすくなること、「共有」は店舗が集客や施設維持の費用を分け合うこと、「トリップチェーン」は一度の外出で複数の用事を済ませることだ。どの利点が働きやすいかは交通環境によって違うかもしれない。ただし、都市の規模も施設の分布と交通の双方に関わる。本研究は、商業施設の集積と交通を含む都市属性の関連を、全国の市を比べて探索した。
研究の方法
観測単位は、必要な都市別データがそろう日本の69市である。施設の位置には、2014年商業統計に記録された商業施設の所在地を使う。比較対象の候補は、2015年の学校、医療施設、公民館、公園の所在地だ。交通については2008年の全国都市交通特性調査から交通手段別の利用割合と1回の移動の平均時間・距離を、人口・面積・人口密度については2015年国勢調査のデータを用いる。まず市ごとに、公共施設の種類や組み合わせ別に施設同士の平均的な隔たりを比べ、最も離れて分布する学校と公民館の組み合わせを商業施設の比較対象に選ぶ。「集積が弱い分布」の代理とするためで、公共施設を実際に無作為配置したわけではない。
次に、各市の商業施設について、異なる2施設を結ぶ全組み合わせの隔たりを計算し、その平均を求める。施設数をnとし、行きと帰りを別々に数える表記では、各組み合わせの値の合計をn×(n−1)で割る。学校・公民館にも同じ操作をする。隔たりの測り方として直線距離、道路網に沿った距離、自動車での移動時間を比較し、以後の都市間分析には移動時間を採用した。各市の集積指数は「学校・公民館同士の平均移動時間÷商業施設同士の平均移動時間」である。商業施設側の平均時間が比較対象より短いほど指数は大きく、商業施設が相対的に近くに集まっていることを表す。例えば両者の平均が等しければ指数は1となるが、これは計算の説明であり、特定の市の実測値ではない。
最後に、集積指数と都市属性との相関を調べ、有意な関連が見られた面積、人口密度、平均移動時間、自動車利用率、鉄道利用率を決定木に用いる。決定木は属性の値で市を順に分け、集積指数の似た群を作る分析である。論文はRのrpartによる分散分析方式を使い、分割と末端群の最小設定値をともに10としたと記す。分けた後は、商業施設が駅周辺、中心市街地、住宅地、沿道などのどこに立地するかを群ごとに見比べる。出力は市別の指数と都市群の特徴であり、交通を変えた場合の予測効果ではない。
この研究の新しさ
都市内の商業施設を任意の小区域ごとの施設数にまとめず、施設間の隔たりから集積を測って市同士を比較した点が特徴だ。行政上の小区域は都市によって大きさが異なるため、区域別の施設数だけでは比較結果が区切り方に左右されうる。さらに、交通手段の利用割合だけを単独で見るのではなく、面積などの都市属性と組み合わせて、交通環境によって集積との関連が変わる可能性を調べた。ただし、三つの集積の仕組みそのものを測定したわけではない。
従来研究との違い
論文によれば、道路網距離と自動車移動時間を使った結果は比較的似ていた一方、直線距離を使うと相当に異なった。直線上では近い施設でも、実際の移動には道路網や地理的条件が関わるため、何を「近さ」とするかが重要になる。また、一つの都市属性と指数を対応させる相関分析に決定木を加えることで、例えば鉄道利用率を面積や自動車利用率と切り離さずに検討している。
結果と評価
学校・公民館を比較対象とし、自動車移動時間で算出した集積指数は、69市の平均が1.36、最高が奈良市の1.82、最低が今治市の0.77だった。決定木は6群を作り、最初に面積199平方キロメートルを境に市を分けた。面積が小さい側の群は鉄道利用率が比較的高く、商業施設の駅周辺への立地割合も高いが、集積指数は低い。一方、面積が大きく自動車利用率が低い群には京都市や大阪市などが入り、集積が強い傾向を示した。面積が大きく自動車利用率が高い側も、鉄道利用率や平均移動時間によって分かれた。
自動車利用率が最も高い群では、施設の沿道立地の割合も6群中で最も高かった。著者らは、大きな都市で鉄道利用率が高い場合にはマッチングやトリップチェーン、自動車依存の都市では共有が集積に関わる可能性を述べる。ただし、買い回り行動や店舗間の費用共有を直接観測した結果ではない。示されたのは、対象69市における指数、都市属性、立地場所の対応関係である。
限界・注意点
【著者が述べる限界】行政上の市境が集積を測る範囲として適切とは限らず、対象を全国の全施設に広げると施設間の組み合わせが膨大になる。公共施設には集積がないという比較の前提も、さらに検証が必要だ。同じ建物内に店舗が集まる場合と街路沿いに集まる場合は区別しておらず、街路設計や用途規制も扱っていない。分析は経済学的な仕組みの推定ではないため、交通投資の便益に直接換算できない。【読み取り上の注意】異なる年の資料を組み合わせた都市間の横断比較であり、決定木による分岐も因果効果を示さない。交通手段の違いが集積を生んだと結論することはできない。
現場への応用案
【編集上の提案】都市の商業地を紹介する際は、駅前の店舗数だけでなく、市の面積、主な交通手段、店舗が駅周辺・住宅地・沿道のどこにあるかを並べて示したい。「鉄道利用が多い都市なら必ず集積が強い」とは言えない、という研究の要点を伝えやすくなる。ただし、立地場所の割合と集積指数は別の指標として表示する。
現場で確かめるには
【編集上の検証案】地域で同様の指数を使う前に、施設所在地の位置精度と道路網上の所要時間を確認する。直線距離、道路網距離、移動時間で市の評価がどれほど変わるか、学校・公民館以外を比較対象にするとどうなるかも確かめたい。市境付近では境界外の施設を含める感度分析が有用だ。交通施策の効果を論じるなら、整備前後の変化や利用者の行動を別途調べる必要がある。
解説は原文の要旨・本文の確認範囲に基づきます。AIで作成し、同じモデルで原文との照合を行っています。全記事の人手による校閲は完了していません。「現場への応用案」「現場で確かめるには」は編集上の検討案です。
