在宅勤務と転居意向はどう結び付くか:リスボン都市圏の居住地調査
Residential dissonance of teleworkers: Implications on relocation and impacts on urban sprawl in a post-COVID world
リスボン都市圏の調査では、在宅勤務への好意的な態度よりも、勤務経験や住宅・世帯の条件が転居意向と結び付いていた。
この論文のポイント
- 2021年のリスボン都市圏のオンライン調査から、必要項目と住所情報がそろった461件を分析した。
- 都市的な地区に住みながら都市的環境をあまり好まない居住地の不一致は、転居意向と正に関連した。
- 在宅勤務への好意的な態度の総効果は有意ではなく、住宅・世帯条件の関連の方が大きかった。
背景と課題
在宅勤務で通勤負担が減ると、郊外への転居がしやすくなり、市街地の拡大につながる可能性がある。ただし、転居を考えるかどうかには、現在の住まいと希望する環境との関係もかかわる。本論文は、実際の居住地と好みの食い違いである「居住地の不一致」に着目し、在宅勤務、居住満足度、転居意向の関係を調べた。身近な施設へ徒歩などで短時間に行ける「15分都市」に近い地区の特徴も分析に加えている。
研究の方法
観測単位はリスボン都市圏のオンライン調査回答者である。調査は2021年春から夏に実施され、930件の回答のうち、必要項目がそろい、住所を地理的に特定できる461件を分析した。回答には、転居意向、年齢、子どもの有無、住宅の寝室数と所有形態、在宅勤務への態度、2019年と感染拡大期の在宅勤務経験、通勤、居住地の好みと満足度が含まれる。住所には、地区の土地利用、施設への距離などのデータを対応させた。
まず、複数の項目に共通する傾向を要約する主成分因子分析で、地区データから「中心的で高密度かつ交通アクセスがよい場所に住む度合い」を、選好の回答から「都市的環境を好む度合い」を取り出す。両得点をそれぞれ低い順に四分位へ分け、その組み合わせで居住地の不一致を0・1・2の順序付き変数にした。高い都市性の地区に住み、都市的環境への選好が低いほど値が大きい。例えば、現在地の都市性が最上位で、都市選好が下位2群なら2となる。この指標は、都市に住みながら郊外的な環境を好む人に焦点を当てており、逆向きの不一致は表さない。
次に、構造方程式モデルを推定する。直接は観測できない在宅勤務への態度、アクセスや公共空間への満足度、15分都市に近い地区の特徴を「潜在変数」として扱う。測定部分では、各設問や地区指標が潜在変数をどの程度表すかを係数で示す。構造部分では、ある潜在変数の値を、他の潜在変数と、在宅勤務経験・通勤・住宅や世帯の条件など観測済みの変数にそれぞれ係数を掛けて足し、説明しきれない差を加えたものとして表す。係数の符号は関連の向き、標準化係数の大きさはモデル内での相対的な強さを示す。順序付き変数があり標本も比較的小さいため、平均・分散調整付き重み付き最小二乗法で推定した。得られた経路係数から、直接効果に加え、途中の変数を経由する係数の積を足した間接効果と、その両方を合わせた総効果を求める。これらを使って転居意向に至る関連を比較し、適合度指標でモデルとデータの整合性を確認した。
この研究の新しさ
居住地の不一致を単なる「一致・不一致」ではなく、現在地の都市性と都市的環境への選好から3段階で表した点が特徴である。さらに、15分都市に近い地区の特徴を「公共施設・公共交通への近さ」と「小売店・街路など」の2側面で捉え、アクセスへの満足と公共空間への満足を分けて検討した。
従来研究との違い
論文が紹介する先行研究には、在宅勤務と郊外への転居意向との有意な関係を見いだせなかったものがある。本研究でも、在宅勤務に好意的な態度から転居意向への総効果は統計的に有意ではなかった。一方、感染拡大期を通じた在宅勤務経験と、2019年に週1~2日在宅勤務していた経験は、転居意向に逆向きの総効果を示した。これは異なる経験を持つ回答者間の関連であり、在宅勤務を増やす介入の効果ではない。
結果と評価
モデルの適合度はCFIが0.926、TLIが0.920、RMSEAが0.035だった。転居意向への標準化直接効果は、居住地の不一致が0.149、公共空間への満足度が−0.128で、いずれも5%水準で有意だった。年齢は−0.221、子どものいる世帯は0.194、寝室1室の住宅は0.168、持ち家は−0.258で、これらの関連の方が大きい。在宅勤務に好意的な態度と不一致の関連は10%水準にとどまり、態度から転居意向への総効果は有意でなかった。
15分都市の公共施設・公共交通への近さを表す変数は、アクセス満足度と正、公共空間満足度と負の関連を示した。この変数から転居意向への総効果は10%水準で有意と報告されている。調査で捉えたのは転居意向であり、実際の転居や転居先ではない。郊外化や市街地拡大は、観測された結果ではなく、著者が関連の向きから論じた可能性である。
限界・注意点
著者が挙げる限界は、大学卒業者や在宅勤務経験者が多い標本の偏り、より複雑なモデルを扱うには標本数が限られること、調査が感染対策や義務的な在宅勤務の経験に近い時期に行われたことである。また、用いた地区指標では回答者が感じる公共空間の質を十分に捉えられない可能性がある。通勤行動と土地利用の因果の向きも、このモデルだけでは確定できない。
現場への応用案
編集上の提案として、結果を紹介する際には、在宅勤務への態度、感染拡大前と拡大期の勤務経験、住宅・世帯条件を分けて示す。15分都市についても、施設へのアクセスの評価と公共空間の評価を並べれば、両者が異なる方向に関連したという結果を伝えやすい。
現場で確かめるには
編集上の検証案として、同じ回答者を追跡し、転居意向が実際の転居につながったか、転居先が中心部と郊外のどちらにあるかを記録する。在宅勤務頻度や住宅・世帯条件の変化も調べれば、今回の関連が時間を経ても続くかを検討できる。公共空間については、交通量や安全性など、回答者の評価に対応する地区指標を加えて確かめたい。
解説は原文の要旨・本文の確認範囲に基づきます。AIで作成し、同じモデルで原文との照合を行っています。全記事の人手による校閲は完了していません。「現場への応用案」「現場で確かめるには」は編集上の検討案です。
