企業は移転するか、どこへ移るか――南ホラント州で比べた集積と交通アクセス
Agglomeration economies, accessibility and the spatial choice behavior of relocating firms
オランダ・南ホラント州の事業所データを用い、移転の有無と移転先の選択に、企業自身の属性、周辺の集積、交通アクセスがどう関連するかを調べた研究である。
この論文のポイント
- 南ホラント州の事業所について、移転の有無と移転先の選択を別々のモデルで分析した。
- 移転先では、短い移転距離への選好が全5業種で確認され、同業種の集積も4業種で正の関連を示した。
- 交通施設への近さと業務移動・通勤のアクセスは、移転先選択との関連が業種によって異なった。
背景と課題
企業が近くに集まれば、同業者に適した労働力や取引先を見つけやすくなる可能性がある。こうした、周辺の企業構成から得られる便益を「集積の外部性」という。交通面でも、駅や高速道路入口への近さと、従業員・取引先が移動しやすいことは、立地の魅力になり得る。ただし、都市や地域の集計値だけでは、個々の事業所が移転したか、どの場所を選んだかを捉えにくい。本研究は事業所を追跡し、企業内部の条件と立地環境を分けて検討する。
研究の方法
観測単位は二つある。第一段階では各年の事業所について移転の有無を、第二段階では移転した事業所について選んだ移転先を調べる。対象は南ホラント州の製造、建設、運輸・流通、生産者向けサービス、消費者向けサービスの5業種。1988~1997年の登録情報から成長や移転を判定し、1990~1996年のデータを推定に使う。事業所の規模は常勤換算の雇用、成長は規模の相対的変化、「若さ」は操業年数の逆数で表す。所在地から駅と高速道路入口までの距離を測り、駅から800メートル以内、高速道路入口から2000メートル以内という条件の組み合わせで4種類の立地に分ける。
交通モデルからは、所要時間・費用、交通手段などを反映した移動選択肢の効用を集約する「ログサム」を得る。業務移動では、ある場所から行ける目的地と利用者タイプごとの効用を指数化して足し、その対数を取る。通勤では企業の立地を到着側に置き、そこへ来られる出発地について同様に計算する。値が変われば、移動先や通勤元への到達しやすさの評価が変わる。混雑時の道路所要時間による7.5分圏では、同業種の雇用割合を地域全体の割合と比べて専門化を測り、圏内の業種別雇用構成から多様性も測る。
まず二項ロジット回帰で、移転の有無を企業の規模・若さ・成長・業種と現在地の属性に関連づける。係数は、ほかの変数を一定としたときの移転の起こりやすさとの関連を示す。次に、観測された移転ごとに業種と規模に応じた候補地集合を作り、業種別の移転先選択モデルを推定する。各候補地の評価値は、元の所在地からの距離、候補地の交通・集積属性、仕様によっては企業の若さや成長と立地属性の組み合わせを足したもの。さらに、空き床面積などを重みに、近くにある別の候補地までの距離から「候補地の集中度」を求め、その対数に係数を掛けて加える。各候補地の評価値を指数化し、候補地全体の指数値の合計で割って選択確率とする。集中度の係数が負なら、候補地同士の競合により個々の場所は選ばれにくい。候補地を作る階層的探索の具体的な抽出規則は、本文からは追えない。
この研究の新しさ
「移転するか」と「移転するならどこへ行くか」を別々に扱う点が重要だ。現在地にある条件と、移転先として好まれる条件は同じとは限らない。また、駅・高速道路入口への近さだけでなく、業務移動と通勤のログサムを用い、集積を測る範囲も道路の所要時間で定めた。交通条件を都市の密度だけで代用せず、異なる尺度で分析に加えている。
従来研究との違い
移転の有無について、著者らは企業自身の属性のほうが集積・アクセス属性より重要だと総括する。ただし、規模の係数が負で有意なのは基本仕様で、若さを加えた仕様では有意でない。成長、若さ、業種にも関連がある。移転先については、交通施設への単純な近さより、同業種の集積や業務移動・通勤でのアクセスに選好が表れる業種がある。一方、業種の多様な場所を一貫して好むという結果は得られていない。現在地の多様性と移転先の多様性を混同しないことも、この二段階の比較には必要だ。
結果と評価
移転先モデルには、従業員が2人を超え、移転前後の所在地を使える移転事業所5,116件を用いた。移転距離の係数は5業種すべてで負かつ統計的に有意で、近場を選ぶ傾向を示す。同業種の専門化は生産者向けサービス、製造、建設、運輸・流通の移転先選択と正に関連した。業務移動・通勤のログサムは、生産者向けサービス、消費者向けサービス、運輸・流通の基本仕様で正に有意だが、製造と建設では有意でない。駅と高速道路入口の双方に近い立地への有意な選好が確認されたのは、生産者向けサービスである。
これは観測された選択と立地属性との統計的な関連であり、集積や交通整備が移転を引き起こしたという因果効果の証明ではない。移転の有無を扱うモデルは仕様別の推定結果が示されているが、本文には標本外での予測精度の検証は示されていない。
限界・注意点
著者らは、交通施設への近さを距離の閾値で表す指標には単純化と距離による偏りがあると指摘する。また、使用したログサムと近接指標は活動・移動パターン上の制約を考慮していない。企業の成長段階に伴って立地選好が変わるという解釈にも、さらに長期の研究が必要だとしている。分析対象は南ホラント州の対象業種・期間であり、結果を他地域や将来の開発計画へそのまま一般化することはできない。
現場への応用案
編集上の応用案として、企業向け用地を紹介する際、「駅に近い」「高速道路に近い」だけで順位を付けず、業種ごとに、現在の拠点からの距離、周辺の同業種、通勤・業務移動のしやすさを並べて示せる。ただし、本研究の係数を別地域の物件評価へそのまま転用する案ではない。
現場で確かめるには
編集上の導入時の検証案として、別地域で同種の分析を行うなら、事業所の移転履歴、移転時点の候補地の空き状況、交通条件を対応づける必要がある。使わなかった時期のデータで移転先の再現性を調べ、業種別にも確かめたい。駅・高速道路入口までの距離区分や7.5分圏の設定を変えても、結論が保たれるかを点検する。
解説は原文の要旨・本文の確認範囲に基づきます。AIで作成し、同じモデルで原文との照合を行っています。全記事の人手による校閲は完了していません。「現場への応用案」「現場で確かめるには」は編集上の検討案です。
