企業の移転先は何で決まる? ノルウェー西岸の立地選択分析
Where and why do firms choose to move? Empirical evidence from Norway
ノルウェー西岸の企業を対象に、移転するかどうかと移転先を一体で推定し、企業の年齢、周辺の集積、移動距離との関係を調べた研究である。
この論文のポイント
- 2009~2013年の対象企業16,251社のうち、2,600社に移転が記録された。
- 企業年齢が高い区分ほど移転しにくく、同業種の雇用と人口の有効密度は移転先の選択と正の関係を示した。
- ホールドアウト標本で最上位選択肢の一致率は85%だったが、全観測で残留が最上位とされ、移転の予測力は別に読む必要がある。
背景と課題
道路整備で地域間を行き来しやすくなれば、企業の立地も変わるのだろうか。その問いを考えるには、企業が移転する条件と、移転する場合に選ぶ場所を分けて捉える必要がある。本研究の対象は、都市と人口密度の低い地域が混在するノルウェー西岸の4県である。著者らは、近くの同業種の活動から得られる利益を「同業集積」、都市に人口や多様な活動が集まることによる利益を「都市集積」と捉えた。ただし、その利益を直接測ったのではなく、雇用や人口の密度を立地条件の指標として用いている。
研究の方法
観測単位は企業で、所在地と移転先は郵便番号区域で把握する。2009~2013年を通じて活動し、従業員数を登録した企業など、16,251社が分析対象となり、このうち2,600社に区域をまたぐ移転が記録された。企業ごとに年齢、期間中の平均従業員数とその増減、従業員1人当たりの給与費用、業種を整理する。立地側の変数は住宅の平均販売単価、建物の平均賃料、元の所在地からの道路網上の距離、業種別雇用と人口の「有効密度」である。有効密度は、当該区域だけでなく周辺区域の雇用・人口も、区域間の一般化旅行費用を介して反映する集積指標である。一般化旅行費用は移動の負担を表す量で、区域内については区域の半径と時速50キロという仮定から求める。推定前には、従業員数を10で割り、移動距離はキロメートル単位の値の対数を取ってから10で割るなど、変数を尺度変換する。
次に、各企業に「移転しない」選択肢と、現在地以外の10の移転先選択肢を設定する。移転企業では実際に選ばれた行き先を含め、ほかの候補を無作為に選ぶ。候補の抽出を変えた50組それぞれで混合ロジットを推定し、係数などの結果を平均する。混合ロジットは、企業が各選択肢に与える選好の強さを属性と係数で表し、最も好ましい選択肢を選ぶと仮定する選択モデルである。移転しない選択肢には固有の定数を置き、移転先に共通する正規分布の変動項で、移転先候補間に残る相関を扱う。係数の正負は、モデルに含めたほかの属性も考慮したとき、選ばれやすさとどう関係するかを示す。推定した係数から企業ごとの選択確率を計算し、確保しておいたデータで実際の選択と照らす。提示本文では有効密度、効用、選択確率の数式部分が欠けているため、旅行費用による重み付けや確率計算の厳密な形は再現できない。
この研究の新しさ
移転の有無だけ、または移転企業の行き先だけを別々に扱うのではなく、残留と行き先を同じ選択枠組みで推定した点が特徴である。企業単位・郵便番号区域単位のデータを使い、旅行費用を考慮した集積指標も組み込んだ。著者らは結果を将来の土地利用・交通相互作用モデルに生かすことを想定するが、本論文で道路事業後の移転を予測・検証したわけではない。
従来研究との違い
論文が紹介する従来の典型的な方法は、まず二項ロジットで移転の有無を、次に移転企業を対象とする多項ロジットで行き先を推定する二段階方式である。本研究は残留を含む選択肢を一度に扱い、移転先候補間の相関も表現できる混合ロジットを採る。ただし、その相関を表す推定値は5%水準で有意ではなかった。従来方式と同じデータで予測精度を競わせた結果は示されていない。
結果と評価
推定では、0~4歳の企業を基準に、5~15歳、15歳以上の企業は移転しにくい方向の係数を示した。同業種の雇用と人口の有効密度は、いずれも移転先の選択と正の関係にあった。製造、建設、宿泊・飲食、小売、運輸をまとめた業種群では、移動距離の係数が負で有意だった。一方、企業規模の係数は負でも5%水準では有意でなく、「大企業ほど移転しにくい」とは確定できない。これらは観測された立地選択との関係であり、集積が移転を引き起こしたという証明ではない。
推定に使わず確保したホールドアウト標本2,751件では、最も確率が高い選択肢と実際の選択との一致率が85%だった。ただし論文は、全観測で残留が最上位だったとも述べるため、この一致率だけで移転をよく予測できたとは言えない。表に示された移転企業350件のうち、移転を正しく捉えたのは71件である。別途、移転企業約200社に電話調査を依頼して得た回答は24社、回答率は12%で、著者らは推定を補う情報と位置付けている。
限界・注意点
著者らが挙げる限界は、同じ郵便番号区域内の移転を十分に捉えられないこと、合併・買収、建設費、利用可能な床面積などの変数がないこと、候補地集合の設定が係数に影響しうることである。対象期間中に開業・廃業した企業や、従業員数を登録していない小規模企業も分析から外れる。結果の対象はノルウェー西岸の観測企業と期間であり、交通投資による移転や地域成長を実証したものではない。
現場への応用案
【編集上の応用案】道路整備の効果を伝える際は、「所要時間の短縮」から直ちに「企業の流入」へ話を進めず、接続先の雇用・人口の厚みと、既存企業からの距離も示す構成が考えられる。これは本研究の係数を別地域にそのまま当てはめる提案ではなく、立地への影響を検討する問いの立て方である。
現場で確かめるには
【編集上の導入時の検証案】別地域の政策評価に用いるなら、事業前後の旅行費用と細かな企業所在地を整え、移転・残留を分けた予測状況や、候補地の抽出方法による係数の安定性を確認したい。開業・廃業や同一区域内の移転も別途把握する必要がある。道路整備の効果を問うには、整備がなかった場合との比較も設計しなければならない。本研究の関連係数だけから因果効果は算出できない。
解説は原文の要旨・本文の確認範囲に基づきます。AIで作成し、同じモデルで原文との照合を行っています。全記事の人手による校閲は完了していません。「現場への応用案」「現場で確かめるには」は編集上の検討案です。
