高齢者の停留所までの徒歩時間と公共交通の利用頻度――米国2都市の比較
Access to Public Transit and Its Influence on Ridership for Older Adults in Two U.S. Cities
60歳以上を対象とする米国2都市の調査では、最寄りの公共交通までの自己申告による徒歩時間と利用頻度の負の関連がサンノゼで見られ、バッファローでは確認されなかった。
この論文のポイント
- 60歳以上への郵送調査を基に、自己申告の徒歩時間と公共交通の利用状況の関連を2都市で分析した。
- 徒歩時間と年換算の利用頻度にはサンノゼで負の統計的関連が見られたが、バッファローでは確認されなかった。
- 過去1年に利用したかどうかを調べるモデルでは、徒歩時間の係数は統計的に有意ではなかった。
背景と課題
バスや鉄道が運行していても、停留所や駅まで歩くことが難しければ、高齢者にとって使いやすい移動手段とは限らない。本論文は、60歳以上の人が感じる最寄りの公共交通までの徒歩時間に着目し、利用の有無だけでなく、利用する頻度との関係を調べた。
対象のニューヨーク州バッファローとカリフォルニア州サンノゼは、市街地の成り立ちが異なる。論文は、バッファローには比較的均一な街路網と公共交通の供給があり、サンノゼの市域には徒歩でアクセスしにくい郊外的な地区も含まれると説明する。ただし、都市の構造が分析結果の差を生んだかどうかを直接検証する研究ではない。
研究の方法
観測単位は、2005年末から2006年初めに実施した郵送調査の回答者1人である。両市の高齢者向け行政機関の利用者名簿から60歳以上を抽出し、バッファローでは400通を発送して171通、サンノゼでは900通を発送して286通の回答を得た。主な説明変数の「徒歩時間」は、自宅から最寄りのバス停または鉄道駅まで歩くのにかかると本人が答えた分数で、経路を実測した距離ではない。
利用頻度を表す目的変数は、前月に週平均何回、公共交通で往復したかという回答から月平均を求め、12倍した年換算の往復回数である。別に、過去12か月に1回以上利用したかを0・1で示す目的変数を作る。前者は直近の利用を年換算した値、後者は過去1年間の利用の有無であり、尋ねた期間は同じではない。説明変数には年齢、性別、人種、所得、杖・車椅子の使用、交通機関への不案内や乗り換えへの認識、外出頻度、同居状況、住宅の種類などを加える。「運転者」は免許を持ち、かつ前月に運転した人と定義する。複数の質問への回答を等しい重みでまとめた障壁・交通機関の評価指標も用いる。さらに、国勢調査による郵便番号区域内の一戸建て住宅割合と、交通事業者の資料による同区域のバス停数・典型的な平日1日のバス運行数を組み合わせる。
計算は、2都市を合わせた標本と都市別の標本でそれぞれ行う。まず年換算回数を目的変数とする線形重回帰を推定する。この式の徒歩時間の係数は、ほかの変数を同じ値に置いた場合、徒歩時間が1分違うと推定利用回数が何回違うかを表す。2都市を合わせる式には都市を区別する変数も入れる。次に同じ説明変数を使い、過去1年の利用の有無を二項ロジスティック回帰で分析する。こちらの係数が表すのは、利用する確率そのものや回数ではなく、利用する確率としない確率の比を対数にした「対数オッズ」の違いである。最後に線形回帰の係数と説明変数の平均値を使い、徒歩時間を変えたときの推定利用頻度を比較する。徒歩5分の差に対する減少率は、この推定値同士を比べた割合であり、係数をそのまま百分率に直した値ではない。
この研究の新しさ
本論文の特徴は、高齢者本人が答えた徒歩時間をアクセスの指標にし、公共交通を「使ったか」と「どのくらい使うか」を別々に分析した点にある。個人の移動能力、運転状況、交通機関への認識に加え、地区のバス供給も説明変数に含め、2都市を対比している。ただし、自己申告の徒歩時間は地図上の距離や実際の歩行時間と同義ではない。
従来研究との違い
利用の有無を調べた二項ロジスティック回帰では、徒歩時間の係数は2都市を合わせた分析でも都市別の分析でも統計的に有意ではなかった。一方、利用頻度の線形重回帰では、徒歩時間の係数は2都市を合わせると負で5%水準、サンノゼでは負で10%水準の統計的有意性を示し、バッファローでは有意でなかった。ここでいう有意性は、各モデルで関連が偶然のばらつきだけでは説明しにくいかを判断する基準であり、徒歩時間の因果効果を示すものではない。
結果と評価
回帰分析の対象は2都市合計307人、バッファロー109人、サンノゼ198人である。線形重回帰の自由度調整済み決定係数は順に0.38、0.25、0.40だった。これは各標本で利用頻度のばらつきにモデルがどの程度対応しているかを示す指標で、別の集団に対する予測精度ではない。
サンノゼの線形モデルでは、徒歩時間が1分長いことに対応する係数は、年換算の往復利用回数で約1.09回少ない。論文が説明変数の平均値などを置いて算出した推定では、徒歩時間が5分長い場合の利用頻度の減少率は、非運転者で5%、運転者で25%だった。運転者のほうが割合として大きいのは、同じ回数の差を異なる推定利用頻度に対して比べているためである。いずれもモデル上の比較であり、停留所への徒歩時間を5分短縮した施策の実測効果ではない。
限界・注意点
【著者が述べる限界】標本が小さく、自己申告には記憶違いや回答の偏りがあり得る。歩行速度や歩きやすさの個人差も十分には捉えられない。また、公共交通を好む人が停留所に近い住まいを選ぶ「居住地の自己選択」は調整されていない。環境指標を郵便番号区域で集計したため、区域内の差が隠れるおそれもある。加えて、回答者は高齢者向け機関の利用者名簿から選ばれており、両市の高齢者全体や他都市への一般化には慎重さが必要である。
現場への応用案
【編集上の提案】地域の公共交通案内では、停留所までの地図上の距離に加え、高齢者本人が見込む徒歩時間や、乗る路線・行き先が分かるかを確認してはどうか。論文は交通機関への不案内も利用状況と関連すると報告するが、案内の改善によって利用が増えるかは示していない。
現場で確かめるには
【編集上の検証案】導入候補地域で自己申告の徒歩時間と実際の歩行経路・所要時間を比べ、横断箇所、休憩場所、バスの運行頻度も記録する。経路改善や案内を試す場合は、実施前後の利用を条件の近い未実施地区とも比較し、運転状況や転居の変化を確認したい。自己申告時間と利用回数がともに変わっても、それだけで施策の効果とは判断しない。
解説は原文の要旨・本文の確認範囲に基づきます。AIで作成し、同じモデルで原文との照合を行っています。全記事の人手による校閲は完了していません。「現場への応用案」「現場で確かめるには」は編集上の検討案です。
