交通系ICカード履歴から居住地・職場の候補区域を絞る方法
Identifying residential and workplace locations from transit smart card data
北京の交通系ICカード履歴を使い、利用停留所の徒歩圏に隣接停留所と土地利用の条件を重ねて、乗客の居住地・職場の候補区域を狭めた研究です。
この論文のポイント
- 乗客ごとの反復した履歴から候補停留所を選び、徒歩圏、同一路線の隣接停留所、筆地の土地利用を使って候補区域を絞った。
- 頻出停留所を特定できた乗客に対する最終候補区域の取得率は、乗車記録のみで居住地70.67%・職場78.17%、乗降双方で居住地68.86%・職場72.29%だった。
- 乗車記録のみで推定した区域を未使用の降車停留所と照合したが、実住所・勤務先による正解判定は行っていない。
背景と課題
交通系ICカードの履歴から分かるのは乗降した停留所であり、乗客が実際に住む場所や働く場所ではない。停留所の配置や路線を検討するには、停留所までの徒歩移動を含めて需要の位置を捉えたい。住所を尋ねる調査には費用や標本規模の制約がある一方、ICカードは継続的な履歴を残しても、通常は住所と結び付いていない。本研究は、利用停留所の周囲全体を候補とする方法より、場所を細かく絞ることを目指した。
研究の方法
分析単位は、カードIDで区別した乗客ごとの複数日の移動履歴である。乗車時刻・停留所・路線を、午前4時を一日の区切りとして時刻順の「トリップチェーン」(日別の移動列)に整理する。降車記録がある場合は、その時刻と停留所も加える。北京の事例では、2017年10月の2週間の履歴から、記録のある日が7日以上で、同じバス停での乗車が5回以上ある乗客を分析対象とした。各停留所には、徒歩で到達できると仮定する円形の範囲を設ける。半径はバス停600m、地下鉄駅1000mで、道路に沿った距離ではなく直線距離である。
乗車記録だけを使う場合、各日の最初の乗車停留所を居住地側の候補とし、最も頻繁に現れる停留所を基準に、その円と重なる円を持つ他の候補停留所を選ぶ。職場側では、直前の乗車記録から6時間以上空いた後の乗車停留所を候補とし、同様に頻度と円の重なりで選ぶ。乗降双方を使う場合、居住地側には「前日の最後の降車停留所と当日の最初の乗車停留所」、職場側には「降車停留所と6時間以上後の次の乗車停留所」の組を用いる。円が重なる組から頻出する組を選び、他の候補も絞る。北京でのこの方式の集計では、同じ組が4回以上現れることを条件とした。
次に、選んだ停留所それぞれの円が共通して重なる部分を、最初の候補区域とする。さらに、利用停留所と同一路線の前後の停留所から等距離となる垂直二等分線を境に、利用停留所に近い側を残す。論文ではGIS(地理情報システム)のティーセン分割でこの境界を作った。終点で前後の片方がない場合は境界を一つだけ使い、同一路線の複数の該当停留所を利用する場合はこの段階を飛ばす。最後に筆地単位の土地利用図と重ね、居住地は住宅・教育用地、職場は商業・教育・行政・企業用地との重なりを残す。出力は住所一点ではなく、乗客ごとの候補区域である。
この研究の新しさ
特徴は、繰り返し利用した停留所の徒歩圏を重ねるだけでなく、同一路線の隣接停留所との位置関係も条件にした点にある。「利用停留所のほうが近いはずだ」という仮定で区域を絞り、最後に土地利用が両立する部分を残す。居住地や職場を直接観測したのではなく、停留所の選択、徒歩到達範囲、土地利用を組み合わせた推論である。
従来研究との違い
停留所の徒歩圏全体を候補とする扱いに比べ、得られる区域は小さい。論文が基準にした円の面積は、バス停の半径600mで1.13km²、地下鉄駅の半径1000mで3.14km²である。北京の事例における平均候補面積は、乗車記録のみでは居住地0.3356km²・職場0.3959km²、乗降双方では居住地0.2674km²・職場0.3565km²だった。面積が小さいこと自体は、実際の住所や勤務先に近いことの証明ではない。
結果と評価
北京のデータは25万人の乗客による7,283,866件の記録で、条件を満たした159,356人を分析した。乗車記録のみを使う方式では、頻出する居住地側の停留所が見つかった146,501人のうち103,535人(70.67%)、職場側が見つかった89,529人のうち69,989人(78.17%)に最終候補区域が得られた。乗降双方を使う方式では、頻出する停留所の組が見つかった居住地側104,165人のうち71,727人(68.86%)、職場側62,704人のうち45,326人(72.29%)だった。これらの割合の分母は元の25万人ではなく、頻出停留所または停留所の組を特定できた乗客である。
乗車記録のみで作った区域は、推論に使わなかった降車停留所とも照合した。対応する乗車停留所とは異なる降車停留所を取り出し、停留所間が所定の距離内にあることを確認したうえで、その降車停留所の徒歩圏が推定区域と重なるかを調べた。居住地側では72,033人中59,786人、職場側では26,786人中23,955人で重なった。これは記録間の整合性の検査であり、実住所や勤務先による正解判定ではない。
限界・注意点
著者は、元の25万人に対して最終的な居住地候補が得られたのは42%未満、職場候補は28%未満であり、2週間では行動の反復を十分に捉えられない可能性を挙げる。また、ICカード記録は2017年だが土地利用図は2013年のもので、用途の変化が結果に影響し得る。用途が欠けた筆地は候補を失わないよう該当用途として扱っており、候補が残る割合を高くする可能性もある。円形の徒歩圏は実際より広くなり得る一方、歩行経路の地図にも抜けがあるため、論文では両者の影響を比較していない。夜勤などでは居住地と職場を取り違える可能性があり、この事例だけで他都市の結果は判断できない。
現場への応用案
編集上の応用案として、個人別の候補区域を集計して需要が集中しそうな地区を地図化し、既存停留所との位置関係を詳しく調べる地区の選定に使える。候補区域を個人の確定した居住地・勤務先として表示しないことが前提となる。
現場で確かめるには
編集上の導入時の検証案として、対象都市で徒歩到達半径や6時間という条件を変え、候補区域が得られる人数と面積の変化を確かめたい。更新された土地利用図を使い、同意を得て実地点を把握できる小規模調査があれば、その地点が候補区域に含まれる割合も別途測る。道路・歩行経路に沿った到達範囲との比較には、歩行者向け地図の詳細さの確認が必要である。
解説は原文の要旨・本文の確認範囲に基づきます。AIで作成し、同じモデルで原文との照合を行っています。全記事の人手による校閲は完了していません。「現場への応用案」「現場で確かめるには」は編集上の検討案です。
