自転車で走りやすい街は、住民にもそう見えているか――ポートランドの環境と認識を比較
Do people’s perceptions of neighborhood bikeability match “Reality”?
ポートランド地域の調査では、居住地周辺の自転車利用環境を地理データで分類した結果と、住民の認識が食い違う例がみられた。
この論文のポイント
- 2011年のポートランド地域の成人電話調査を、住民の回答と居住地周辺の道路・土地利用指標を組み合わせて分析した。
- 客観的環境が高い群の36%は認識の低い群に、客観的環境が低い群の46%は認識の高い群に入った。
- 環境・認識と自転車利用頻度の関係は利用目的によって異なり、観察された関連から因果関係は判断できない。
背景と課題
自転車で走りやすい環境を、道路や施設の配置だけで捉えられるだろうか。本研究は、地理情報システム(GIS)を使った「客観的環境」の計測と、住民への質問による「認識された環境」の評価を区別する。両者が一致しないことは、環境と自転車利用の関係を考えるうえで重要だが、自転車を対象に食い違いの特徴まで調べた研究は少ない。著者らは、どのような人に食い違いがみられ、それが利用目的別の自転車利用頻度とどう関係するかを調べた。
研究の方法
観測単位は米国オレゴン州ポートランド地域の成人回答者である。2011年7~8月、固定電話と携帯電話による無作為抽出の電話調査で902件の回答を得た。環境の認識は、近くの道路外の自転車道、自転車レーン、静かな道路への行きやすさ、交通量による走りにくさ、日常の行き先まで自転車で行けるか、安全性からみた地区設計への満足度という6項目で尋ねた。いずれも5段階の回答である。客観側には地域の道路網・土地利用データを使い、居住地から道路網に沿って到達できる1マイル圏内の目的地数、交差点の接続性、勾配25%以上の土地の割合、生活道路・自転車優先道路・自転車レーン・道路外の自転車道の延長という7指標を用いた。接続性は、3本以上の道路がつながる交差点数を、圏内の全交差点数で割った値である。初めに、複数の指標に共通する傾向を抽出する因子分析を、認識側と客観側に別々に適用した。認識側では「日常の行き先が自転車圏内にある」という項目の因子負荷量が採用基準の0.4に達せず、除外した。残る5項目から、評価が高い方向を表す1因子を採用した。客観側では7指標から2因子を採用し、主に「接続された道路網・生活道路」と「自転車レーン・道路外の自転車道」を表すものと解釈した。因子負荷量は各指標と因子の結び付く方向や強さを示し、認識側では交通量による走りにくさが負、客観側では坂の多さが両因子で負だった。
次に、抽出した因子をもとに、似た回答者をまとめる階層的クラスター分析を行った。認識は高・低の2群、客観的環境は高・中・低の3群となる。両者を組み合わせた6群について、過去1か月に用事、通勤、余暇などで自転車に乗った日数の平均を比べ、分散分析で群間差を検討した。さらに客観的環境の水準ごとに、認識が食い違う群に入るかどうかを目的変数とする二項ロジスティック回帰を推定した。年齢や所得、交通への態度、家族・友人による自転車利用への支持、犯罪への認識、自転車利用状況などを説明変数として同時に扱う。報告されたオッズ比は、ほかの投入変数を踏まえ、ある属性と食い違う群に入る相対的な起こりやすさとの関連を表す。出力は6群の構成、目的別利用日数の群間比較、食い違いに関連する属性である。本文には因子得点の算出式や指標の標準化手順の詳細は示されていない。
この研究の新しさ
GISによる評価と住民の回答のどちらが「正しい」かを決めるのではなく、それぞれを分類したうえで、特に客観的には高評価でも本人は低く評価する群の特徴を調べた点が研究の焦点である。客観的環境の中程度の群は、高評価群より自転車レーンや道路外の自転車道が多い一方、道路網の接続性などが異なる。著者らも、両群は異なる種類の良好な環境かもしれないと述べており、「高・中・低」は全員に共通する優劣とは限らない。
従来研究との違い
本文が紹介する先行研究には、徒歩環境などについて住民の認識と客観的な計測の一致度を調べ、一致は低いか中程度としたものが多い。本研究は自転車利用環境を対象に、食い違いと個人・社会的な特徴に加え、用事、通勤、余暇という利用目的別の頻度も検討した。ただし、先行研究と同じ標本や指標を用いて結果を直接比較した研究ではない。
結果と評価
環境と認識を分類できた678人のうち、客観的環境が高い129人では46人(36%)が認識の低い群に入り、客観的環境が低い406人では187人(46%)が認識の高い群に入った。客観的環境が中程度の群は別種の良好な環境とも解釈できるため、認識との一致・不一致を単純には判定しにくい。
平均利用日数の分散分析では、客観的環境の水準による差は自転車利用全体・用事・通勤でみられたが、余暇では有意でなかった。認識の高低による差は、客観的環境が高い群の用事で、また中程度の群の通勤で確認された。一方、客観的環境が低い群では、認識の高低による目的別の日数の有意差は確認されなかった。回帰分析では、高評価の環境を低く認識することが、55歳以上、年収5万ドル未満、犯罪率が高いという認識、自転車利用頻度の低さなどと関連した。これらは同時点の関連であり、認識を変えれば利用が増えるという因果効果は示していない。
限界・注意点
著者が挙げる限界には、「走りやすさ」の定義が人や利用目的で異なること、GISデータが施設の質や規模を十分に表せないこと、全員に一律の1マイル圏を近隣とみなしたことがある。また、交通量や安全性の認識に正確に対応する客観指標がなく、質問への回答にも測定誤差がありうる。調査の回答率は20%で、標本は地域人口より女性と高齢者が多い。編集上の注意点として、6群の集計は678人、回帰分析の対象は比較ごとに101~311人である。他地域へ結果をそのまま当てはめたり、観察された関連を施策の効果と読み替えたりはできない。
現場への応用案
【編集上の提案】自転車施策を紹介する際は、施設の整備延長だけで「走りやすくなった」と結論づけず、住民が経路の使いやすさや安全性をどう受け止めているかも併記したい。接続した静かな道路と専用の自転車施設を区別して尋ねれば、異なるニーズを見落としにくい。
現場で確かめるには
【編集上の導入・検証案】地域で経路案内や安全情報の提供を試すなら、実施前後に同じ質問で環境認識と目的別の自転車利用日数を測る。道路・施設の変化と参加者の属性を記録し、可能なら対象外の地区とも比較して、認識、物理的環境、利用の変化を分けて確かめる。これは論文で効果が実証された介入ではなく、今後の検証案である。
解説は原文の要旨・本文の確認範囲に基づきます。AIで作成し、同じモデルで原文との照合を行っています。全記事の人手による校閲は完了していません。「現場への応用案」「現場で確かめるには」は編集上の検討案です。
