中国の高速鉄道と都市経済――直通列車の接続性からみた分析
Estimating the economic benefits of high-speed rail in China: A new perspective from the connectivity improvement
中国268都市のデータを使い、高速鉄道の直通列車による接続性が一人当たりGDPとどう関係するかを、自都市と隣接都市に分けて調べた研究である。
この論文のポイント
- 中国268都市の2008〜2015年について、直通高速列車の運行本数から都市別の接続性を測った。
- 資本ストック、人的資本、都市化率によって、接続性と一人当たりGDPとの推定上の関係に違いがみられた。
- 空間ダービンモデルで分解した接続性の合計効果は約0.11で、その大部分は自都市への直接効果だった。
背景と課題
高速鉄道の投資額や路線延長だけでは、開業によって都市間の直通サービスがどれほど増えたかは分からない。一方、経済的に活発な都市ほど鉄道が整備されやすい可能性があり、接続性と経済水準の単純な相関も読み解きにくい。論文は中国の高速鉄道網を対象に、接続性と都市の一人当たりGDPの関係が、資本や人材などの条件で異なるか、隣接都市にも及ぶかを検討する。
研究の方法
観測単位は都市・年で、対象は2008〜2015年の268都市、計2144観測である。まず鉄道時刻表からG・D・C型の高速列車について、都市間の一日当たり直通運行本数を集める。都市ごとに他都市との直通本数を合計し、都市数で正規化した指標を「接続性」とする。これは運行本数で重み付けした次数中心性、つまりネットワーク内の直接の結び付きの強さであり、未接続都市ではゼロになる。乗り換えを伴う接続は数えない。目的変数は一人当たりGDPの対数である。対数は、所得水準の差をおおむね比例的な差として読みやすくする変換を指す。説明変数には接続性のほか、一人当たり資本ストック、海外直接投資、平均就学年数、第2次産業のGDP比率、都市人口比率の対数を置く。論文は必要な変数について物価の影響を除いたとしている。
次に、都市ごとに一定の特徴と各年に共通する変化を固定効果として考慮し、接続性の係数を推定する。この係数は、統制変数と固定効果を考慮した上で、接続性が1単位異なるときの一人当たりGDPの対数の差に対応する。さらに、接続性と統制変数の積である交互作用項を一種類ずつ加える。例えば資本ストックとの交互作用を入れた式では、接続性に対応する推定上の値は「接続性の基本係数+交互作用の係数×資本ストックの対数値」となり、資本水準によって関係が変わるかを調べられる。
経済水準と鉄道整備が相互に関係し得る内生性への対応には、接続性などの過去の値と、1962〜1985年の道路延長を操作変数として使う。操作変数には、接続性と関連する一方、推定式に残る未観測要因とは無関係であるという前提が要る。ただし、過去の道路延長を年ごとの変数にした具体的手順は本文に記されていない。最後に、境界を共有する都市の組を1、それ以外を0とする空間重み行列を作る。これを使う空間ダービンモデルでは、自都市の変数に加え、隣接都市のGDP、接続性、統制変数を考慮する。隣接都市のGDPも式に入るため、接続性の単一の係数をそのまま効果とは読まず、推定結果を自都市への直接効果、他都市への間接効果、その合計に分解する。
この研究の新しさ
研究の着眼点は、高速鉄道網の拡大を路線延長や投資額ではなく、直通列車の本数から作る都市別の接続性で捉えたことにある。都市の経済条件による違いを交互作用項で調べるとともに、操作変数による推定と空間モデルを用い、内生性や隣接都市との統計的な依存関係も検討した。ただし、この接続性は時刻表上の直通サービスの指標であり、利用者数や乗り換えを含む到達可能性そのものではない。
従来研究との違い
都市・年の固定効果を考慮した基本モデルでは、接続性の係数は0.016で正、操作変数を使った推定でも0.017で正だった。交互作用項を別々に加えると、資本ストック、人的資本、都市化率との積は正で統計的に有意となり、接続性と一人当たりGDPの関係が都市の条件によって異なることを示した。
空間分析では、隣接都市のGDPを考慮するSAR、誤差の空間的な関係を扱うSEM、GDPと説明変数の双方について隣接都市の値を扱う空間ダービンモデルを比較した。論文のWald検定と尤度比検定では、空間ダービンモデルをSARまたはSEMの形に縮約できるという仮説が棄却された。
結果と評価
空間ダービンモデルで分解した接続性の推定値は、最尤推定で直接効果0.103、間接効果0.007、合計0.110、操作変数を使うIV-GMMでそれぞれ0.104、0.005、0.109だった。論文の表ではいずれも正で統計的に有意であり、合計の大部分を自都市への直接効果が占める。IV-GMMは、操作変数と推定式が満たすと仮定した関係を利用して係数を求める方法である。これらの値は接続性指標の1単位の差と一人当たりGDPの対数との関係を表す。「GDP成長率が11%上がる」という実測値や、金銭換算した便益ではない。
操作変数について、論文は第一段階のF統計量を384.725と報告し、Hansen検定とSargan検定では外生性の条件を棄却しなかった。ただし、棄却されなかったことは、過去の道路延長が現在の経済水準に別の経路で関係しないことの証明ではない。因果的に読むには、操作変数の前提が成り立つ必要がある。
限界・注意点
著者は、分析期間が比較的短く、2015年より後に運行する路線も多いため、高速鉄道の展開初期の関係を主に捉えている可能性を挙げる。より長い運行期間を対象とした波及効果や、別の空間重み行列による分析は今後の課題としている。また、測定上は乗り換え接続を含まず、波及先は鉄道で結ばれた都市ではなく境界を共有する都市である。この結果を長期的な全国の便益や、隣接しない鉄道沿線都市への波及にそのまま広げることはできない。
現場への応用案
【編集上の提案】「直通列車が増えたか」と「経済との関係は自都市と隣接都市のどちらに現れるか」を分けて示すと、高速鉄道の影響を一律に語らずに済む。直通本数が同じだけ増えた二都市でも、資本や人材の条件によって推定上の関係は異なり得る、という仮想例も説明に使える。ただし、論文で観測した個別都市の成果として扱わない。
現場で確かめるには
【編集上の導入時の検証案】別の地域や時期で同じ指標を使うなら、時刻表上の直通本数が実際の運行・利用実態と合うかを確かめたい。また、境界の共有で波及先を定める場合と、所要時間や鉄道上の接続で定める場合を比較し、直接・間接効果の分解がどれほど変わるかを点検する。操作変数から経済水準に至る別経路の可能性も検討が必要である。
解説は原文の要旨・本文の確認範囲に基づきます。AIで作成し、同じモデルで原文との照合を行っています。全記事の人手による校閲は完了していません。「現場への応用案」「現場で確かめるには」は編集上の検討案です。
