所得のない国勢調査で居住立地をどう推定するか――ベルリンの入札型モデル
Estimating bid-auction models of residential location using census data with imputed household income
ベルリンの国勢調査に欠ける世帯所得を別の統計から補い、所得別の居住立地パターンを推定した研究を解説する。
この論文のポイント
- ベルリンの2010年小規模調査で世帯の所得階級の確率を推定し、所得のない2011年国勢調査に適用した。
- 最多確率の階級を採るFP法と、確率に従って100回割り当てるMC法で、入札型立地モデルを比較した。
- MC法は地区別の所得階級確率を概してよく再現したが、各世帯の真の所得で検証した結果ではない。
背景と課題
住まいの立地と交通の関係を調べるには、世帯属性、住宅の位置、目的地への行きやすさを結び付ける必要がある。ベルリンの2011年国勢調査(Zensus)は約180万世帯を含み、街区単位の位置情報から細かな地区特性を付けられるが、世帯所得を記録していない。一方、所得を把握できる2010年の小規模調査(Mikrozensus)は約1万5000世帯を含むものの、位置情報は12地区単位に限られる。
本研究は、所得の分かる調査で世帯属性と所得の関係を推定し、その結果を国勢調査に適用する。所得は居住先を選べる予算や立地との関連を考えるうえで重要だが、国勢調査の各世帯について実測された値ではない。この不確実性を、立地モデルの推定までどう扱うかが中心的な問いである。
研究の方法
分析の単位は世帯で、所得の補完では所得階級が目的変数となる。両資料の個人情報を世帯単位に集約し、就業者がいれば最年長の就業者、いなければ最年長者を代表者と定める。小規模調査の純世帯所得24区分を4階級にまとめ、両資料にある属性を説明変数に使う。具体的には、代表者と2人目の就業者の産業区分、単身世帯かどうか、代表者の移民背景、年齢帯別の構成員数である。国勢調査の住宅には、交通分析ゾーン(TAZ、交通分析に用いる地区区分)ごとの周辺属性なども付ける。
まず、小規模調査で順序ロジット回帰を推定する。これは階級の高低を利用する統計モデルで、世帯属性にそれぞれの係数を掛けて足した潜在的な値を、推定した3つの境界値と比べる。所得階級nの確率は、境界値から属性の加重和を引いた値に対するロジスティック分布の累積確率を、階級nの上限と下限で求めて差し引いたものだ。したがって係数が正なら、他の属性が同じ場合に、より高い階級へ確率が移る方向を示す。この式で国勢調査の各世帯について4階級の確率を計算する。FP法は確率が最大の階級を一度割り当てる。MC法はその確率に従って世帯ごとの割当てを100回作り、各回で立地モデルを推定して係数を平均する。
立地モデルは、住宅側から入居する世帯類型を見る「入札・競売型」の多項ロジットである。候補は所得階級別の世帯類型で、立地は住宅タイプとTAZの組を表す。類型ごとの入札を住宅・地区・到達しやすさの属性で説明し、類型別の世帯数も考慮して、その立地に各類型が割り当てられる確率を推定する。最終仕様の属性は集合住宅の床面積、戸建てかどうか、地区内の高所得世帯比率、車での東西都心への所要時間である。高所得世帯比率には、先に求めた世帯別の所得確率を地区内で集計した値を用いる。出力は類型別の係数と立地確率で、確率を地区別に集計して比較する。ただし提示本文では入札確率と入札関数の数式部分が抽出されておらず、確率計算の正確な形や推定の細部は確認できない。
この研究の新しさ
細かな位置と住宅属性を持つ国勢調査に、別調査から推定した所得階級を組み合わせ、所得別の入札型立地モデルを推定した点が特徴である。さらに、所得階級を最頻の一つに固定する方法と、階級ごとの確率に従って繰り返し割り当てる方法を、同じ立地属性を使って比べた。
従来研究との違い
一般的な効用に基づく立地選択モデルでは世帯が住宅を選ぶ側だが、本研究の入札型モデルでは住宅側から見て世帯類型を候補とする。所得補完では、最多確率の階級を採るFP法は割当てを特定の階級に集中させやすい。確率に従うMC法は、最頻ではない階級にも割当てを残す。両立地モデルは同じ属性を使い、所得階級の割当て方を変えて比較している。
結果と評価
所得補完モデルは小規模調査の1万4922世帯から推定し、両立地モデルには同じ国勢調査標本の1万7949世帯を用いた。世帯別の所得確率をTAZごとに集計した値と、補完後の階級比率を照合すると、論文はMC法の方が、とくに世帯数の多い中間階級の比率をよく再現したと報告する。FP法は中間階級を過大に割り当てる傾向があった。
立地モデルでは両手法とも、所得階級が高いほど広い集合住宅や戸建てとの関連が強く、都心までの車の所要時間にも階級間の差が見られた。ただし、入札関数の係数をそのまま支払意思額とは読めない。全類型の係数を同じだけ変えても割当て確率は変わらないため、解釈するのは類型間の差である。MCモデルの収束時の対数尤度はFPモデルより低いが、論文は、FP法が補完所得を確定した値として扱う点を踏まえ、適合度だけで判断していない。地区別の立地確率の比較では、MC法は低所得側の2階級でずれが小さい地区が多い一方、第3階級ではずれが大きかった。照合先は補完モデルから作った確率であり、各世帯の真の所得ではない。
限界・注意点
著者は、国勢調査の就業情報が自営業などを捉えきれず、教育や職歴も所得補完に使えないと述べる。立地モデルについても、住宅の質・築年数、世帯が利用できる交通手段、都心と郊外の違いを表す属性が不足し、所得以外の世帯類型の方が立地差を表す可能性を挙げる。国勢調査の更新間隔は長く、両統計の個票は機密上公開できない。編集上の注意として、同じ補完モデルに由来する地区別確率との一致は、真の所得による外部検証を意味しない。
現場への応用案
編集上の応用案として、所得別の居住分布を地図で伝える際は、所得が実測値ではなく別資料からの補完値であることを明記したい。補完方法によって地区別の結果が変わる場所も示せば、推定の不確実性を観測された地域差と取り違えにくい。
現場で確かめるには
編集上の導入時の検証案として、別の都市や年次に適用する前に、二つの資料で世帯属性の定義がそろうかを確かめる。所得が分かる独立資料を利用できるなら階級別の補完精度を確認し、立地予測も所得階級・地区別に点検したい。交通手段や住宅属性を追加した場合の推定結果の変化も調べ、ベルリンで見られた関連をそのまま施策の因果効果と扱わないことが重要だ。
解説は原文の要旨・本文の確認範囲に基づきます。AIで作成し、同じモデルで原文との照合を行っています。全記事の人手による校閲は完了していません。「現場への応用案」「現場で確かめるには」は編集上の検討案です。
