施設への近さは誰に有利か――ルイビル都市圏の世帯別比較
Examining the role of urban form In shaping people's accessibility to opportunities: An exploratory spatial data analysis
ルイビル都市圏で居住地から施設への近さを比べると、農村部を除き、社会的排除のリスクがあるとされる集団は、比較対象より指標上おおむね不利ではなかった。
この論文のポイント
- 2000年の旅行日誌に回答した4,383世帯を起点に、7郡内から選んだ20,133施設への道路網上の所要時間を用いた。
- 施設への近さを、重力型、一定時間内の施設数、最寄り施設までの時間という指標で調べた。
- 農村部の世帯はおおむね不利だったが、調べたほかのリスク集団は、施設配置に基づく指標では概して比較対象より不利ではなかった。
背景と課題
食料品店や病院などが住まいから遠ければ、日常生活や社会参加に支障が生じうる。ただし、目的地への行きやすさは施設の配置だけで決まらない。車の利用可否、公共交通、個人の時間的制約も関わる。この研究が取り出したのは、都市形態、すなわち居住地と活動先の空間的な配置である。仕事・通学以外の目的地について、社会的排除のリスクがあるとされる人々の居住地が、ほかの人々より施設から遠いかを調べた。ここでいうアクセシビリティは、実際に施設を利用できるかではなく、居住地から見た到達しやすさの指標を指す。
研究の方法
計算の起点は、2000年の旅行日誌調査に回答したルイビル都市圏の4,383世帯の住所である。日誌には世帯員の属性、旅行目的、目的地が記録されている。施設データは、調査対象の5郡に、境界を越える移動を考慮した隣接2郡を加えた7郡を対象とする。所在地と業種が分かる34,440施設から、仕事・通学以外の行き先となる20,133施設を選び、小売、サービス、余暇、宗教に分類した。さらに小売・サービス・余暇では、日誌で訪問が多かった行き先を各10種類に分ける。道路網上で各世帯から各施設への最短経路の自由流走行時間を求め、約8,824万組の所要時間を用意した。
次に、住所ごとに3種類の指標を計算する。4つの大分類に用いる重力型指標では、施設ごとの従業員規模区分の平均人数に、所要時間が長いほど小さくなる指数型の重みを掛け、同じ分類の全施設について足す。近くに規模の大きい施設があるほど値は大きい。重みの減り方を決めるため、16歳以上の仕事・通学以外の旅行を選別し、目的地の業種に合う旅行件数を1分刻みの所要時間帯ごとに数えて、4分類別の時間減衰を推定する。累積機会指標では、自由流走行時間を交差点での停止や混雑などを見込んで25%増やし、1、2、5、10、15、20分以内の施設数を数える。近接指標は、種類ごとの最寄り施設までの所要時間である。累積機会と近接は、大分類と30の詳細分類について計算する。前二者は値が大きいほど、近接は小さいほど近づきやすい。最後に、世帯の所在地や世帯員の属性で集団を分け、対応する集団との差を、値の順位に基づくウィルコクソン順位和検定で調べる。論文中の時間減衰係数には式と整合しない符号表記があり、係数を用いた再計算には確認が要る。
この研究の新しさ
あらかじめ区切った地区の平均値ではなく、個別の世帯住所と施設の位置から指標を作る点が特徴だ。地区内の全住民を同じ条件とみなさず、サービス全体への近さと、郵便局や病院といった個別の行き先への近さも区別できる。また、施設の規模と所要時間を合わせる重力型、一定時間内の施設数、最寄りまでの時間を併用する。たとえば施設が多数あることと、必要な種類の施設がすぐ近くにあることは同じではない。ただし、重力型を計算したのは4つの大分類であり、すべての詳細分類に3指標を適用したわけではない。
従来研究との違い
著者らは、従来の社会的排除をめぐる研究には、到達しにくさを重視しながら、地区単位で測ったり、対象施設を具体的に定めなかったりするものがあると指摘する。本研究は世帯住所から明示した施設種別への近さを比べる。一方、個人が実際に移動した範囲を扱う研究や、通勤先への到達を扱う研究とは問いが異なる。道路網上の共通の所要時間を使うため、車を使える人と使えない人の移動条件の差も、この比較には含まれない。
結果と評価
施設へのアクセスは都市圏の中心側で高く、農村部の世帯は、少数の例外を除いて都市部より指標上不利だった。一方、低所得世帯、単身世帯、ひとり親世帯、女性、高齢者は、対応する集団よりおおむね高いアクセシビリティを示した。所得別では、中所得世帯を比較基準とすると、低所得世帯の方が高く、高所得世帯の方が低い傾向だった。これは中心部と周辺部の居住地の違いと整合するが、居住地選択の原因を特定する分析ではない。
差の出方は指標と時間の範囲によっても異なる。たとえば1分以内の施設数では、女性と男性の間で有意差がない施設種別が多い。論文は、対象となった集団間での指標の方向を報告しているのであって、属性そのものが施設配置を変えたという因果効果や、社会的排除が存在しないことを示してはいない。
限界・注意点
著者らが明示する中心的な限界は、移動手段を分析から切り離したことだ。道路網上の走行時間は、車を持たない人の実際の移動時間を表さない。個人の時間的制約や社会参加そのものも測っていない。著者らは、公共交通での所要時間を使う分析や、個人・土地利用の特徴を含む旅行行動の分析を今後の方向として挙げる。加えて編集上の留意点として、集団比較から居住地選択などによる交絡は分離できず、2000年の一都市圏の結果を現在や他地域へ一般化できない。
現場への応用案
【編集上の提案】施設配置を伝える記事では、市域の施設総数だけでなく、居住地から一定時間内の施設数と最寄り施設までの時間を併記すると、生活上の違いが伝わりやすい。サービス全体には近くても病院には遠い、という可能性を施設種別ごとに確認できる。ただし、この研究の数値を現在の別都市に当てはめてはならない。
現場で確かめるには
【編集上の検証案】導入先では住所・施設の位置と業種を更新し、行政界の外側にある利用可能な施設も含めて時間圏を計算する。そのうえで、自動車による走行時間だけでなく、徒歩経路、公共交通の待ち時間、施設の営業時間を考慮した場合に集団間の順位が変わるか確かめたい。近くても費用や利用条件のため使えない施設がないか、利用者への聞き取りで点検する。これらは本論文で実施された検証ではない。
解説は原文の要旨・本文の確認範囲に基づきます。AIで作成し、同じモデルで原文との照合を行っています。全記事の人手による校閲は完了していません。「現場への応用案」「現場で確かめるには」は編集上の検討案です。
