横断場所の配置と道路の速さは、歩行者事故の過失判断とどう関係するか
The built environment and the determination of fault in urban pedestrian crashes: Toward a systems-oriented crash investigation
米国オハイオ州の歩行者事故を分析した研究は、事故時の歩行者の位置に加え、制限速度や道路種別などの環境が、警察官による過失判断と関連することを示した。
この論文のポイント
- 2015~2019年のフランクリン郡の歩行者事故2757件を収集し、そのうち1518件で警察官の過失判断を回帰分析した。
- 事故時に歩行者が道路の中間部・走行車線にいた場合は、表示のある交差点にいた場合より、運転者過失に対する歩行者過失のオッズが高かった。
- 4地区の比較では、信号付き横断箇所の間隔、表示のある交差点での事故割合、歩行者過失とされた事故割合に差が見られた。
背景と課題
歩行者事故の報告書には、事故に最も関わった当事者を記録する欄がある。しかし、横断場所までの距離や道路の速さも、事故時に歩行者がどこにいたかに関わりうる。著者らは、人の誤りも見込んで被害を防ぐ「Safe Systems」と、交通死亡・重傷事故ゼロを目指す「Vision Zero」の視点から、道路環境と過失判断の関係を調べた。対象は米国オハイオ州フランクリン郡で2015~2019年に記録された歩行者事故である。ここでの「過失」は警察官が事故報告書に記録した判断を指し、独立した法的認定ではない。
研究の方法
観測単位は歩行者事故1件で、元データは2757件。目的変数は報告書の「運転者に過失」「どちらにも過失なし」「歩行者に過失」の3区分とした。説明変数には、歩行者の年齢と事故時の位置、運転者の注意散漫や旋回、制限速度、道路種別、車線数、負傷の重さ、天候などを用いた。事故地点から100メートル以内の表示のある・ない横断歩道の数と歩道密度、50メートル以内の店舗・バス停の数も付け加えた。人口密度、所得、人種構成、通勤手段は事故地点が属する国勢調査区の値を結び付けた。回帰分析からは、運転者不明の事故445件、飲酒した当事者を特定できない事故224件、郡内の非編入地域の事故47件、および必要なデータが欠けた事故を除き、1518件を使った。
次に、多項ロジスティック回帰で、3区分のうち「運転者に過失」を基準として、残る各判断が出る相対的なオッズと説明変数の関係を推定した。オッズは、ある判断が基準の判断に対してどれほど出やすいかを表す。報告されたオッズ比は、ほかのモデル変数を考慮したうえで、説明変数が1単位増えたときにそのオッズが何倍になるかを示す。例えば制限速度のオッズ比1.09は、時速1マイル高いと、運転者過失に対する歩行者過失のオッズが1.09倍となる関連を意味する。事故の発生確率が9%増えるという意味ではない。年と地区の固定効果も入れ、それぞれに共通する違いを考慮した。
別に、事故10件以上の地区と2件以上の事故がある幹線道路区間ごとに、歩行者過失とされた事故の割合を集計・地図化した。この空間分析には、運転者不明などの事故も可能な範囲で含めた。事故が多く過失判断の傾向が異なる4地区では、研究者が幹線道路を徒歩と車で観察し、横断設備、歩行者信号の方式、信号付き横断箇所の間隔を調べた。出力されたオッズ比、地図上の割合、地区別の観察結果を合わせ、道路環境と記録上の過失判断の関係を検討した。
この研究の新しさ
この研究は、事故の発生や負傷の重さに加えて、「誰に過失があると記録されたか」を分析した。事故報告書にある当事者の行動と位置に、周辺の横断施設やバス停などの情報を加え、回帰分析、地区・道路区間別の集計、現地観察をつないでいる。著者らは、横断施設の配置が事故時の歩行者の位置を通じ、過失判断の地区差に関わる可能性を論じた。
従来研究との違い
回帰分析で、表示のある交差点にいた場合を基準にすると、歩行者が道路の中間部または車両走行車線にいた場合、運転者過失に対する歩行者過失のオッズ比は21.90、表示のない交差点では9.45だった。制限速度が時速1マイル高い場合は1.09、生活道路に対する幹線道路は1.99、50メートル以内のバス停が1つ多い場合は1.30だった。一方、100メートル以内の表示のない横断歩道が1つ多い場合は0.90だった。いずれも事故が起きた事例内での統計的な関連であり、道路改修の効果を直接測った値ではない。
結果と評価
モデルの適合度を示すMcFaddenの擬似決定係数は0.413と報告された。地区比較の対象となった幹線道路事故1697件のうち、都心部では歩行者過失とされた割合が17.5%、サウス・リンデンでは55.5%だった。表示のある交差点で起きた事故の割合は、それぞれ70.3%と12.5%。観察対象の幹線道路における信号付き横断箇所の平均間隔は、都心部の161メートルに対し、サウス・リンデンでは429メートルだった。これらは地区差と道路環境の対応を示すが、横断施設の差だけが判断の差を生んだとは実証していない。
限界・注意点
著者らは、利用可能なデータに警察官ごとの情報がなく、報告書の文章も分析していないため、判断理由や担当者間の差を確かめられないと述べる。近隣の横断歩道数や歩道密度と過失判断の関係にも、十分説明できない部分が残る。また、この分析は記録された事故を対象とし、事故に至らなかった横断や歩行者の通行量を同じ単位で比較していない。対象地域と期間を越えて結果を当てはめることや、横断施設整備の因果効果を判断することには、追加の検証が必要である。
現場への応用案
【編集上の提案】事故報道や事例解説では、報告書に記録された過失判断とともに、利用できる横断箇所までの距離、信号の有無、制限速度、近くのバス停を確認して示す。例えば「道路の中間部を横断」と記す際に、付近の横断場所の配置も添えれば、読者は事故時の行動を道路環境と併せて検討できる。この伝え方の効果は論文では検証されていない。
現場で確かめるには
【編集上の検証案】自治体が事故調査票を見直す際は、歩行者事故について最寄りの横断箇所までの距離、横断施設と信号の種類、待ち時間、中央分離帯の有無を試行的に記録する。まず記録者間の一致度と欠測率を調べ、次に道路環境を踏まえた改善提案につながるかを確かめる。事故件数や過失割合の前後差を施策の効果と即断せず、歩行者数、車の交通量、地区ごとの違いも確認する。
解説は原文の要旨・本文の確認範囲に基づきます。AIで作成し、同じモデルで原文との照合を行っています。全記事の人手による校閲は完了していません。「現場への応用案」「現場で確かめるには」は編集上の検討案です。
