上海郊外の移転先住宅地で、公共交通は「選べる足」か
How is public transit in the megacity peripheral relocatees’ area in China? Captive transit rider and dynamic modal accessibility gap analytics in a peripheral large-scale residential area in Shanghai, China
上海郊外の住宅地を対象に、公共交通を使わざるを得ない人の回答と、地下鉄・タクシーで到達できる施設数の差を調べた研究である。
この論文のポイント
- 2011年の地区内調査では、最頻移動に公共交通を使う124人のうち89人(71.77%)が、ほかに選択肢がないと答えた。
- 全体のサービス評点には待ち時間、速度、運行時間、路線・停留所数の評点が正に関連した。制約のある利用者では、他手段との乗換えの評点や自転車の利用可能性に関する関連が見られた。
- 地下鉄とタクシーで到達可能なPOI数の比較では、30分圏はおおむねタクシー側、60分圏はおおむね地下鉄側が多かった。
背景と課題
上海では、中心部の住宅の取り壊しに伴い、住民が郊外の大規模住宅地へ移転してきた。住宅が改善されても、日常の移動手段を選べるとは限らない。研究対象の金鶴新城は、上海の外環状道路の外側にある約2平方キロメートルの地区である。2011年の住民調査時には地区内に地下鉄駅がなく、バス5路線が運行していた。著者らは、公共交通の利用率だけでなく、利用者に代替手段があるか、サービスをどう評価するか、一定時間内にどれだけの施設へ行けるかを検討した。
研究の方法
分析の単位は、住民調査では「1人の最も頻繁な移動1件」、到達可能性の比較では「出発地・時間帯・移動手段・所要時間の上限」である。2011年、地区内の10開発地区で世帯を抽出し、1世帯から12歳を超える1人に回答を求めた。有効回答320人の各1件から、通勤・通学など161件と、買い物・通院など143件を残し、娯楽目的16件を除いた304件を扱う。調査項目は移動目的と6種類の交通手段、時間・費用、個人属性、公共交通への態度である。「ほかに選択肢がなく公共交通を使う」という回答を、制約のある利用者の判定に用いる。サービス全体と待ち時間、運行時間、乗換えなど11項目の評価は、「非常に悪い」1点から「非常に良い」5点までの順序付き評点にする。
計算はまず、6手段の選択と、直接は観測できない公共交通への認識を組み合わせた選択モデルを同時最尤法で推定する。認識は苦情の頻度とサービスが期待に合うかという回答で測り、選択部分には移動目的別・手段別の定数、所要時間・費用などを用いる。次に、制約のある公共交通利用者、選んで使う利用者、自動車利用者、二輪車利用者の属性や評点の平均を一元配置分散分析で比べる。さらに、サービス全体の1~5点を目的変数、各項目の評点や属性などを説明変数とする順序ロジット回帰を行う。これは評点の高低と説明変数との関連を調べる方法で、正の係数は、その変数の値が高い人ほど全体にも高い評点を付ける方向を表す。制約のある利用者とその他で係数を分けるモデルも推定する。
最後に、2015年4月の1週間分のタクシーGPS、地下鉄ICカードの記録と、POI(店舗・施設などの地点情報)を用いる。金鶴新城から30分または60分で到達できる範囲について、時間帯別に地下鉄側とタクシー側のPOI数を数える。地下鉄側は2011年当時の最寄り駅・宋虹路駅まで15分かかると置き、駅からの移動時間をそれぞれ15分、45分とする。動的手段間アクセシビリティ格差(DMAG)は、地下鉄側のPOI数からタクシー側のPOI数を引き、両者のPOI数の和で割った値である。正なら地下鉄側、負ならタクシー側の到達可能なPOIが多い。この値を所要時間の上限と時間帯ごとに比較する。ただし、本文には移動記録から到達範囲を作り、POIを集計する細かな処理が示されていないため、その部分の再現手順は特定できない。
この研究の新しさ
著者らが重視するのは、郊外の移転先住宅地で、公共交通に代替手段がないと感じる利用者を本人の回答から捉え、主観的なサービス評価と時間帯別の到達可能性を併せて見る点である。DMAGにより、施設数の手段間差が30分圏と60分圏、また1日の時間帯によってどう異なるかを示す。ただし、この計算で公共交通を代表するのは地下鉄だけであり、バスを含む公共交通全体の比較ではない。
従来研究との違い
著者らは、従来の手段間アクセシビリティ格差は主に静的に扱われ、移転先住宅地で制約のある利用者を詳しく調べた研究も少ないと位置付ける。地区の交通手段分担率を上海中心部の資料とも比べるが、地区側は各人の「最も頻繁な移動」、中心部側は別の移動調査である。論文自身が大まかな比較にとどまると断っている。交通手段の選択モデルについては通常の多項ロジットモデルとの適合度比較を報告するが、それだけで公共交通への認識が選択を変えたと証明できるわけではない。
結果と評価
分析対象304人の最頻移動のうち、公共交通利用者は124人。そのうち89人、71.77%が「ほかに選択肢がない」と答えた。4群の平均比較では、この層は相対的に高齢で、女性や非就業者が多く、運転免許保有が少なく、公共交通への苦情も多い。一元配置分散分析が示すのは群間の平均差であり、属性が利用手段を決める因果関係ではない。
サービス全体の評点を扱う回帰の有効標本は285人である。全体モデルでは、待ち時間、速度、運行時間、路線・停留所数の各評点が全体評点と正に関連した。制約のある利用者とその他を分けたモデルでは、制約のある利用者について、他手段との乗換えの評点が正に関連し、自転車を利用できないことは低い全体評点に関連した。DMAGは30分圏でおおむねタクシー側、60分圏でおおむね地下鉄側のPOI数が多かった。いずれも論文が設定した地区、手段、所要時間、データ期間での結果である。
限界・注意点
【著者が挙げる限界】1地区での試行的調査で標本が限られる。住民調査は2011年、地下鉄・タクシーの記録は2015年と時期が異なり、DMAGにはバスが入っていない。交通手段の選択上の制約が時間とともにどう変わるかを追うデータもない。著者らは標本の追加、サービスの詳細分析、バスデータの導入などを今後の課題とする。
【編集上の検証事項】対象地区は無作為に選ばれておらず、回答した移動も各人の最頻1件に限られる。評点同士の関連には、個人の評価傾向などが重なり得る。また、駅までの15分という設定や、地下鉄・タクシーを各手段の代表とする設定を変えてもDMAGの傾向が保たれるかは、別途検証が必要である。
現場への応用案
【編集上の提案】「公共交通を使っている」と「選んで使っている」を別の問いとして示すと、利用率だけでは見えない不便さを説明しやすい。地域向けの解説では、本人が申告した代替手段の有無、サービス評点、30分圏と60分圏の違いを並べられる。
現場で確かめるには
【編集上の導入・検証案】別の地区で改善策を検討する際は、まず現在のバス・地下鉄へのアクセス、待ち時間、運行時間、乗換え、自転車の利用可能性を現地で確かめたい。改善前後に同じ質問とPOI集計条件を用い、制約のある利用者の評価と時間帯別の到達可能性を比べる。ただし、前後差を施策の効果と判断するには、同時期に起きたほかの変化も確認する必要がある。
解説は原文の要旨・本文の確認範囲に基づきます。AIで作成し、同じモデルで原文との照合を行っています。全記事の人手による校閲は完了していません。「現場への応用案」「現場で確かめるには」は編集上の検討案です。
