厦門の職住ミスマッチ――移住労働者は仕事に近くても通勤時間が長い
Spatial mismatch for distinct socioeconomic groups in Xiamen, China
中国・厦門市の研究は、職種と地元戸籍の有無で仕事への到達可能性を比べ、住まいと仕事の位置関係だけでは通勤時間の差を説明できないことを示した。
この論文のポイント
- 厦門市の市街化区域を1キロメートル四方の格子で分析し、職種と地元戸籍の有無による居住分布と仕事への到達可能性を比べた。
- 対象の3職種では、いずれも地元労働者の空間的ミスマッチが移住労働者より大きいと報告された。
- ピンクカラーとホワイトカラーでは、移住者のミスマッチが小さくても平均通勤時間は地元者より長く、交通手段の違いも重要だった。
背景と課題
空間的ミスマッチとは、ある集団の居住地と、その集団に適した仕事の場所とのずれをいう。中国では、職場が住宅なども提供した「単位(ダンウェイ)」制度の解体や住宅市場化によって、職住の関係が変化してきた。論文は、北京などの巨大都市で得られた知見を別の都市にそのまま当てはめられないとして、厦門市を調べる。労働者を、主に肉体労働に従事するブルーカラー、対人サービスなどに従事するピンクカラー、専門・管理・事務などに従事するホワイトカラーに分け、さらに厦門の地元戸籍を持つ人と持たない移住者を区別した。
研究の方法
分析の基本単位は、厦門市の市街化区域に置いた一辺1,000メートルの格子で、人口が1,000人を超える格子を選んだ。2015年の世帯交通調査から職種、地元戸籍の有無、居住地、交通手段、通勤時間などを把握する。この調査は市の総人口の約3%を対象とする。仕事側には2012年の企業・雇用記録を使い、仕事を3職種に分類した。次に、各格子の中心点間の徒歩・公共交通による所要時間を地図サービスから取得した。経路検索の出発時刻は午前8時に統一している。交通調査で労働者の約75%が収まる移動時間を基に、到達範囲の上限を徒歩20分、公共交通50分と定めた。
各出発格子について、上限時間内に着く格子にある同じ職種の仕事を合計し、「仕事への到達可能性」を計算する。ただし、仕事1件の重みは所要時間に応じて小さくする。具体的には、所要時間に交通手段別の減衰係数を掛け、その値を指数とする指数関数を重みに用いる。係数は徒歩が−0.050、公共交通が−0.015で、同じ手段なら遠い仕事ほど合計への寄与が小さい。こうして出発格子・職種・交通手段別の値を得る。
続いて、同じ職種の地元者または移住者の居住者数を、全格子に住むその職種の労働者総数で割る。仕事側では、各格子の到達可能性が市内全体に占める割合に、その集団が当該職種の全労働者に占める割合を掛ける。前者から後者を引いた値が格子別の差である。仕事側を地元者と移住者の構成比に応じて配分し、同じ職種の仕事を双方に丸ごと割り当てない仕組みになっている。差が正なら、その格子では当該集団の居住の比重が、配分後の仕事への到達可能性の比重を上回る。差を地図に示し、調査で観測された通勤時間の分布とも見比べた。
この研究の新しさ
論文の工夫は、職種別の到達可能性と居住分布を格子ごとに照合する際、地元者と移住者が同じ職種の仕事をめぐって競合することを構成比で表した点にある。これにより、市全体を一つの数で示すだけでなく、どの格子で各集団の居住の比重が仕事側の比重を上回るかを示せる。ただし、構成比による配分は個々の仕事への応募や採用を追跡したものではない。
従来研究との違い
論文は測定法の違いを整理する。実際の通勤時間を使えば個人間の差を調べられるが、それだけでは市内のどこにミスマッチがあるかを示しにくい。従来の非類似性指数は、住宅と仕事の分布の偏りを地域全体で捉える指標だが、細かな場所ごとの差は示しにくい。一方、仕事への到達可能性は格子別に求められるものの、職種をさらに戸籍別に分けると、同じ仕事をめぐる競合を見落とし得る。本研究は到達可能性を計算したうえで分布差を求める。各手法の予測精度を同一条件で競わせた研究ではない。
結果と評価
厦門の対象区域では、3職種とも地元労働者の空間的ミスマッチが移住労働者より大きいと報告された。ブルーカラーの地元者は都市の外縁に、移住者は工業地に近い「都市村」と呼ばれる集落などに住む傾向がある。ピンクカラーとホワイトカラーの仕事は厦門島に集中し、島内では公共交通によって仕事への到達可能性が高まる。
一方、ピンクカラーとホワイトカラーでは、地元者のミスマッチが大きくても、平均通勤時間は移住者より短かった。論文は、地元者が自家用車をより多く使うなどの交通手段の違いに注目する。格子別には仕事側と居住側の分布が比較的釣り合う場所で通勤時間が短い傾向があるが、仕事側の比重が小さい場所ほど必ず通勤が長いわけではない。特にピンクカラーについて、著者らは計算上のミスマッチが実際の通勤時間を延ばしたとする十分な証拠はないと述べる。
限界・注意点
著者らの結果からは、潜在的に到達できる仕事の分布だけで実際の通勤時間を説明することはできない。以下は編集上の留意点である。仕事の記録は2012年、世帯交通調査は2015年で時点が異なる。分析対象も人口が1,000人を超える市街化区域の格子に限られる。また、職種別の仕事と労働者の構成比は一致せず、分類上適した仕事を各人が実際に選べるとは限らない。観察された交通手段と通勤時間の関係を因果効果とみなしたり、結果を別の都市や時期へそのまま広げたりはできない。
現場への応用案
【編集上の提案】住宅政策を紹介する際は、「到達できる仕事が多い住宅地」と「実際に短時間で通勤しやすい住宅地」を分けて示すと、指標の意味が伝わりやすい。候補地ごとに職種別の仕事への到達可能性と、想定される入居者の交通手段を並べて考えたい。
現場で確かめるには
【編集上の検証案】住宅や交通施策の候補地を検討するなら、職種別の仕事数、戸籍別の居住分布、徒歩・公共交通の所要時間を新しい時点でそろえ、格子別の差を再計算する。そのうえで実際の通勤手段と時間を別途調べ、到達可能性の改善が通勤負担の軽減とともに見られるか確認したい。
解説は原文の要旨・本文の確認範囲に基づきます。AIで作成し、同じモデルで原文との照合を行っています。全記事の人手による校閲は完了していません。「現場への応用案」「現場で確かめるには」は編集上の検討案です。
