走行距離をクレジットで管理したら運転は変わるか――北京とオランダの意向調査
Willingness to change car use under a tradable driving credits scheme: A comparison between Beijing and the Netherlands
走行距離に応じて使うクレジット制度を仮定した調査では、北京の車所有者はオランダより変更意向を多く示したが、その中には走行距離を増やす回答もあった。
この論文のポイント
- 2016年の調査で、北京の車所有者660人とオランダの車所有者474人の回答を分析した。
- 北京ではクレジットの不足・余剰の両条件で約6割が変更意向を示したが、その中には走行距離を増やす回答も含まれた。
- 両地域の回帰分析で、高学歴と長い申告走行距離は変更意向と正に、高所得は負に関連した。
背景と課題
北京ではナンバープレートの発行制限や曜日別の運転規制が行われている。しかし、これらは個々の車の走行距離を直接管理する制度ではなく、運転できる日に利用を増やすなどの対応も起こりうる。論文が扱う譲渡可能な運転クレジット(TDC)は、運転者に走行用のクレジットを配り、足りなければ購入し、余れば売却できるという構想だ。
著者らの問題意識は、TDCの理論研究に比べ、影響を受ける車所有者自身の反応を調べた研究が少なく、中国については実証研究がなかったことにある。そこで、距離に基づく仮想的なTDCの下で車利用を変える意向を北京で調べ、オランダで行った類似の調査と比較した。
研究の方法
観測対象は、車所有者が仮想的な制度条件に対して申告した走行距離の変更意向である。調査は2016年6月にオランダ、7月に北京で主にオンラインで実施し、データ整理後の標本はそれぞれ474人、660人だった。まず直近7日間について、活動の回数と車による走行距離(VKT)を尋ねた。北京では活動を「仕事・教育」「日常の用事」「余暇」の3群に分け、各群の距離を距離帯で回答してもらった。週の距離は各帯の中間値を足して概算し、「200km超」には225kmを当てた。オランダでは11種類の活動を4群にまとめ、距離は所定の選択肢から回答してもらった。距離は概算で、両調査では把握方法も異なるため、回帰分析には連続した距離ではなく、それぞれの標本内の距離階級を用いた。
次に、1クレジットで1km走れ、時間帯や場所を問わず全走行にクレジットが必要と説明した。北京では各人に、申告距離より50クレジット不足する条件と50クレジット余る条件の両方を提示した。1クレジットの単価は0.5、0.8、1.0元から無作為に割り当てた。オランダでは、申告距離の15%または30%に相当する不足・余剰の計4条件から各人に一つを割り当て、単価も0.10、0.15、0.20ユーロから割り当てた。回答者は活動群ごとに距離を増減するかを答え、オランダでは増減率も選んだ。所得や学歴、車の実用上の必要性、車の象徴的な意味、運転の楽しさも尋ねた。
著者らは変更意向を集計した後、個人属性、距離階級、クレジットの単価や過不足と回答との関連をロジット回帰で推定した。北京では「減らす」「増やす」を、それぞれ「変えない」と比べる多項ロジットを使い、同じ人の不足・余剰条件への回答を合わせて分析した。オランダでは増加回答が少ないため、「変える」と「変えない」の二値ロジットを使った。係数は、ほかの投入変数を考慮したとき、基準の回答に比べてその回答が出る起こりやすさの対数が変わる方向を示す。車への態度を追加したモデルも推定し、属性との関連がどう変わるかを確認した。出力は実際の走行距離の予測ではなく、仮想条件下での回答割合と、回答に関連する要因である。
この研究の新しさ
本研究は、中国では調査例がなかったTDCへの車所有者の反応を北京で調べ、オランダの類似調査と並べた。さらに北京では、単に車利用を「変えるか」ではなく、「減らす」と「増やす」を分けて分析している。この区別によって、変更意向の高さをそのまま削減意向の高さと読み替えずに済む。オランダについても、既存研究で対象とされた頻繁に車通勤する人に限らず、より広い車所有者の回答を扱った。
従来研究との違い
北京ではクレジットが不足する条件でも余る条件でも、約6割が変更意向を示した。オランダでは最も変更意向が高い条件でも約3割で、不足条件のほうが余剰条件より高かった。ただし、北京は一都市、オランダは全国から回答者を募っている。北京の各人は両条件に答え、オランダの各人は一条件に答えたほか、過不足の設定、活動分類、距離の尋ね方も異なる。この割合の差だけから、地域そのものが変更意向を左右したとは言えない。
結果と評価
北京で「変える」と答えた人のうち、距離を増やす回答は不足条件で20.5%、余剰条件で38.2%を占めた。オランダで増加を答えた人は少数だった。回帰分析では、両地域とも高学歴と長い申告走行距離は変更意向と正に、高所得は負に関連した。一方、北京では所得や学歴などが、削減と増加の両方について「変えない」と比べて同じ方向の関連を示す場合があった。車の象徴的な意味も、北京では両方向の変更と正に、オランダでは変更と負に関連した。
著者らは、北京で増加回答が出た背景として、現在の運転規制で抑えられた需要などを挙げるが、これは調査で確かめた仕組みではない。結果は仮想条件への申告と属性との関連であり、制度導入後の走行距離、渋滞、排出量の変化を測定したものではない。
限界・注意点
著者が挙げる限界には、北京とオランダで異なる回帰モデルを用いたこと、北京では同じ人による二条件への回答をまとめたため多項ロジットの前提に抵触しうることがある。北京の調査には年齢、職業、居住地・勤務地などの情報も欠けている。また、提示した制度は時間帯や場所で必要クレジットを変えず、価格が変動する市場での取引行動を再現していない。
編集上の注意として、両調査の設計と対象地域の違いを残したまま、回答割合や回帰係数を制度導入の因果効果として扱わない。北京の結果を中国全体に広げたり、この調査だけから総走行距離の削減を見込んだりすることもできない。
現場への応用案
編集上の提案として、結果を紹介する際は「変更意向」と「削減意向」を別々に示したい。北京では不足条件でも増加回答があることを併記すれば、変更する人が多いという結果から削減効果を推測する誤読を避けられる。また、この調査で提示した固定単価の条件と、総走行距離の上限を設けて取引価格が変動するTDCの制度構想を区別して説明したい。
現場で確かめるには
編集上の導入時の検証案としては、小規模な試行でクレジット配分量、売買価格、実際の走行距離、代替交通手段への変更を継続して記録し、申告意向と行動の差を調べることが考えられる。所得層別の購入負担も確かめたい。世帯内の移転、取引方法、違反の確認、訪問者の扱いなどは、試行前に条件を明確にする必要がある。こうした試行は本論文では実施していない。
解説は原文の要旨・本文の確認範囲に基づきます。AIで作成し、同じモデルで原文との照合を行っています。全記事の人手による校閲は完了していません。「現場への応用案」「現場で確かめるには」は編集上の検討案です。
