本文へ移動
交通と土地利用

住宅費の上限に交通費を含めると都市はどう変わるか――パリ圏のモデル分析

Prudential measures in housing access: Should one include transport costs in the front-end ratio?

Nicolas Coulombel
Journal of Transport and Land Use

原文PDFを読む ↗論文の公開ページ ↗

住宅費だけを制限する制度と交通費も含めて制限する制度を比べ、家計の支払い余力、効用、都市の広がりへの影響を調べた研究です。

この論文のポイント

  • 論文の都市モデルでは、住宅費のみ、住宅費と交通費の合計のいずれに上限を設けても、無規制時より都市が小さくなる。
  • パリ圏の数値例では、平均支払い余力を59.7%にそろえると、交通費込みの案の方が都市半径は小さく、住宅費のみの案の方が効用は高い。
  • 数値例の都市半径は論文が示す実際のパリ圏の大きさを下回り、結果は制度変更の実測効果ではなくモデルによる見積もりである。

背景と課題

賃料や住宅ローン返済額を所得の一定割合以下に抑える審査は、家計の支払い能力を守るために使われる。一方、中心部の住宅を選びにくくなった世帯が郊外へ移り、交通費の負担を増やすとの懸念がある。著者はこの懸念を検討するため、住宅費のみを制限する案と、住宅費・交通費の合計を制限する案を比較した。本稿でいう「支払い余力」は、住宅費と交通費を払った後に残る総所得の割合である。

研究の方法

基本モデルの分析単位は、中心業務地区からの距離rで表す居住地点と、そこに住む世帯である。世帯数N、全世帯に共通の所得Yと好み、地点ごとの供給土地L(r)、交通費T(r)を設定する。T(r)は中心から遠いほど高い。地点rの地代をR(r)、一世帯が使う土地面積をs、その他の財への支出をzとし、世帯は「R(r)×s+z+T(r)=Y」の範囲で効用、すなわちモデル上の満足度U(z,s)を最大にする。住宅費のみの案ではR(r)×sを所得の1−α以下に抑える。交通費込みの案ではR(r)×s+T(r)を所得の1−μ以下に抑える。α、μが大きいほど上限は厳しいが、対象費目が異なるため同じ値同士では比較しない。

計算では、まず各地点で所定の効用を保ちながら制約を満たす世帯について、土地1単位に支払える最高額「入札地代」と土地面積sを求める。住宅費のみの上限は予算式からzをαY−T(r)以上にする条件、交通費込みの上限はzをμY以上にする条件として扱える。上限が効く地点では、所定の効用の下で土地面積と入札地代が下がる。次にL(r)をsで割って人口密度を求め、都市内の人口がNに一致し、都市の端の入札地代が都市外での土地の価値に等しくなるよう、効用と都市の端を定める。単純化した線形都市ではT(r)を距離に比例させ、各上限が効き始める地点も調べる。住宅供給を変えられる拡張では、開発業者が土地と資本から住宅サービスを生産し、その価格に応じて供給量が変わる。パリ圏の数値例には2008年に対応する人口・所得などの値を使い、各地点の残余所得割合z/Yを人口で加重平均した支払い余力をそろえて、効用と都市半径を比較する。

この研究の新しさ

住宅費の上限が郊外化を促すという主張を、住宅価格や居住密度も変わる都市の均衡の中で検討した点が特徴である。住宅費のみの上限と交通費込みの上限を同じ枠組みで扱い、家計の支払い余力・効用と土地利用を併せて比べている。

従来研究との違い

論文のモデルでは、両案とも無規制時より都市を小さくする。線形都市では、住宅費のみの上限は中心部から、交通費込みの上限は外縁部から世帯の選択を制約する。パリ圏の数値例で平均支払い余力をそろえると、交通費込みの案は都市半径と支払い余力の地点間格差をより小さくし、住宅費のみの案はより高い効用を示す。これらはモデル内の比較であり、制度変更後に観測された効果ではない。

結果と評価

パリ圏の数値例で平均支払い余力を59.7%にそろえると、都市半径は住宅費のみの案で35.7km、交通費込みの案で25kmとなり、無規制時の40kmを下回る。同じ順の効用は471.91、468.45で、無規制時は460.6である。効用はモデル上の指標であり、金額ではない。59.7%は、論文が現在の住宅費上限に対応すると置いた水準である。著者はこの分析を政策効果の初期的な見積もりと位置づける。計算上の都市半径は、論文が示す実際のパリ圏のおよそ60kmよりいずれも小さい。

限界・注意点

著者が挙げる限界には、雇用が中心部に集まる単一中心都市、同一所得・同一の好みを持つ世帯、距離で表す平均交通費という単純化がある。所得差や家族構成の違いを扱わないため、誰が住宅価格低下の利益を得るかは十分に評価できない。住宅市場の不均衡や複雑な土地利用も対象外であり、著者は精密な政策効果の推定には、より高度な交通・土地利用モデルが必要だとしている。

現場への応用案

編集上の応用案として、平均支払い余力を共通の横軸にし、両制度の都市半径と効用を並べる解説図が考えられる。上限の数値だけを並べると、住宅費のみと交通費込みでは制限する費目が違うことを見落としやすい。

現場で確かめるには

編集上の導入時の検証案として、候補住宅ごとの将来の交通費を通勤距離、交通手段、自動車の固定費・変動費から見積もり、入居後の支出との差を確かめたい。さらに所得階層や世帯人数ごとに、上限への該当、住宅選択、支払い余力の変化を調べる必要がある。これらは論文が実施した制度導入実験ではない。

解説は原文の要旨・本文の確認範囲に基づきます。AIで作成し、同じモデルで原文との照合を行っています。全記事の人手による校閲は完了していません。「現場への応用案」「現場で確かめるには」は編集上の検討案です。

← 解説の一覧へ原文PDFを読む ↗