スプロールの是非をどう判断するか――交通アクセスと政策の受け手に着目する
Counterpoint: Accessibility and Sprawl
都市の分散を一律に善悪で裁くのではなく、問題の種類、政策の内容、便益と負担の受け手を分けて考える論考である。
この論文のポイント
- スプロールに伴う問題を、市場・規制・参加の三種類の失敗から検討する。
- スマート・グロースを、総合計画、具体的な開発手法、交渉過程の変更に分けて論じる。
- 車の利用を制限する政策では、移動費用の増加と機会へのアクセスの変化が誰に及ぶかを区別すべきだと主張する。
背景と課題
スプロールとは、市街地が郊外へ広がり、開発が分散することを指す。Craneは、所得の上昇と実質的な交通費の低下を都市の分散と結び付けるBruegmannの歴史的説明を評価する。一方、「分散には利点がある」という説明から、反スプロール政策は逆効果だという判断まで進むことには異議を唱える。都市の形だけでは、そこで何が問題となり、どの対策が妥当かは決まらないからだ。
本稿はBruegmannの議論への反論として書かれた論考である。新たな交通調査や政策効果の推計を報告する実証研究ではなく、土地利用と交通をめぐる判断を整理し直す枠組みを提示している。
研究の方法
検討の単位は道路区間や旅行者の観測記録ではなく、スプロールに伴うとされる問題、政策の構成要素、その影響を受ける人々である。著者はまず、「スプロールの費用」を考えるため、問題の起こり方を三つに分ける。市場の失敗は、私的な選択に社会全体への影響が十分反映されず、非効率が生じる場合をいう。本文では、緑地の価値の過小評価、過剰な渋滞、自動車利用の環境費用などが例に挙がる。規制の失敗は、公的な規制や行動が市場の働きをかえって損なう場合であり、参加の失敗は、意思決定の包摂性、意思疎通、代表性が不十分な場合を指す。この区分によって、分散した市街地という形と、それを問題と呼ぶ理由を切り離す。
次に、対策として語られる「スマート・グロース」を三つの取り組みに分解する。第一は、土地利用とインフラを見通しを持って総合的に計画すること。第二は、高密度化、用途の混合、都市成長境界、歩行や公共交通を重視した設計などの具体策である。都市成長境界とは、開発が広がる範囲を定める手法をいう。第三は、土地所有者と規制当局の交渉に環境団体が早い段階から加わるような、開発をめぐる意思決定過程の変更である。著者は、車の利用を減らす設計への批判だけでは、総合計画や参加の仕組みまで評価したことにはならないと論じる。ただし、三つの取り組みに点数を付けたり、優先順位を計算したりはしていない。
最後に交通上の論点を、モビリティとアクセシビリティに分ける。モビリティは地点間を移動する容易さ、アクセシビリティは移動の目的である仕事などの機会に到達し、それを得られることを指す。車の利用費用を上げる政策では、移動が難しくなる人と、特定の場所へのアクセスが改善する人が同じとは限らない。こうして得られるのは予測値や最適な政策ではなく、施策ごとに便益と負担の受け手を問うための論点である。本文に対象者の区分方法、アクセス指標の算出式、効果の推定手順は示されていない。
この研究の新しさ
この論考の特色は、スプロールを擁護するか抑えるかという二者択一から離れ、問題の種類、対策の種類、影響の分配を別々に扱う点にある。特に、スマート・グロースを高密度化や車の利用抑制だけに還元せず、総合計画と開発の交渉過程も含めて整理する。これは新たな効果測定法の提案ではなく、政策論争で何を比較しているのかを明確にするための概念整理である。
従来研究との違い
著者はBruegmannについて、郊外化の歴史を示し、スプロールが新奇で米国固有の、常に悪い現象だという見方を揺さぶった点を認める。他方、分散に伴う社会的費用を十分に扱わず、スマート・グロースを主として反自動車・高密度化の政策として描いていると批判する。その描き方では、計画や参加の仕組みへの評価が残る。
ただし著者も、車の利用を減らす都市設計が渋滞や自動車走行距離をどれだけ減らし、誰のアクセスを改善するかは明らかでないと述べる。本稿は、分散と高密度のどちらが常に優れるかを実測値で比較したものではない。
結果と評価
本稿の強みは、異なる問題や施策を「スプロール対策」として一括評価する危うさを示す点にある。自動車が利用者にもたらす便益を考えず、運転にかかる金銭的・時間的費用を上げれば、旅行者や地域の状況を悪化させる可能性がある。また、ある場所へのアクセスが改善しても、車の費用増を負う人がその恩恵を受けるとは限らない。この指摘は、政策の総量的な成果だけでなく、受益と負担の分配を確かめる理由になる。
一方、本文には事例を用いた比較実験や定量的な効果測定はない。したがって、特定の施策が渋滞を減らす、あるいは低所得者のアクセスを改善すると本稿から判定することはできない。
限界・注意点
著者は、スマート・グロースという語の意味が幅広く、意思決定への参加が実際にどれほど改善するかも明らかでないと述べる。また、都市設計が交通やアクセスに与える効果、異なる都市形態・交通政策の下で誰が得をし誰が損をするかについて、結論を急ぐべきでないという立場である。編集上の留意点としても、本稿の概念整理から特定地域の効果や因果関係は推定できない。アクセスの測定方法や比較対象は別途定める必要がある。
現場への応用案
【編集上の提案】都市政策を紹介する記事では、「スプロール対策」と一括りにする前に、対象とする問題が環境費用、規制、参加のどれに関わるかを示す。そのうえで、施策が総合計画、土地利用・交通設計の具体策、開発の交渉過程の変更のどれに当たるかを記す。これは本稿の区分を読者向けに活用する案であり、著者が各施策の有効性を実証したという意味ではない。
現場で確かめるには
【編集上の検証案】地域で施策を導入するなら、内容と対象区域を特定したうえで、導入前後の通勤先などへの到達状況、運転にかかる時間・費用、渋滞や環境負荷を確認したい。所得や居住地、車を利用できるかどうかによって、便益と負担がどう異なるかも見る必要がある。ただし、前後の変化だけを施策の効果とは呼べない。同時期の雇用配置や交通サービスの変化など、別の要因を検討することも必要になる。これは今後の検証案であり、本稿が実施した調査ではない。
解説は原文の要旨・本文の確認範囲に基づきます。AIで作成し、同じモデルで原文との照合を行っています。全記事の人手による校閲は完了していません。「現場への応用案」「現場で確かめるには」は編集上の検討案です。
