本文へ移動
交通と土地利用

上海都心の長期居住者は、駅が近くてもなぜ車を持つのか

Car ownership and commuting mode of the “original” residents in a high-density city center: A case study in Shanghai

Tao Chen / Haixiao Pan / Yanbo Ge
Journal of Transport and Land Use

原文PDFを読む ↗論文の公開ページ ↗

上海都心部の調査では、車保有や通勤手段は自宅側の駅距離だけでは説明できず、勤務先側の駅距離との関連が示された。

この論文のポイント

  • 上海中心部の3地区を調査し、本文は勤務先が都心外にある回答者188人を報告した。
  • 車保有は勤務先側の駅距離と関連した一方、自宅側の駅距離との有意な関連は確認されなかった。
  • 通勤手段の分析では、勤務先から駅まで遠いほど、車に対して地下鉄を選びにくい方向の関連が示された。

背景と課題

地下鉄が整備された都心に住めば、車への依存は小さくなるのだろうか。この論文が注目するのは、上海の急速な都市拡大以前から中心部に暮らす「従来からの居住者」だ。何世代も前からの地元住民に限らず、長年住み、公共交通になじみがある人を含む。中には都心から郊外の職場へ向かう人もおり、郊外から都心への通勤を主に想定した地下鉄網では、住宅側に駅が近くても職場側の接続が十分とは限らない。

研究は、この集団の車保有と通勤手段を、自宅・勤務先の立地、所得、住居の取得形態、地下鉄への態度と併せて調べる。駅に近い住宅という一条件から、世帯が車を持つか、通勤に何を使うかを判断できるのかが焦点である。

研究の方法

調査は2013年10月、上海中心部の地下鉄駅周辺3地区で行われた。駅からの距離が異なる街区を選び、世帯と構成員から回答を得た。都心では370世帯を調べ、当初の有効回答は270世帯・674人。対象とする長期居住者に当てはまらない14人を後の分析から除いた。質問票には車保有、通勤手段、年齢・性別、世帯所得、住居の取得形態、通勤時間・費用、自宅・勤務先の位置を含む。「車と地下鉄の所要時間が同じなら地下鉄を好むか」という回答を、態度の変数とした。所得は分析用に年10万元を境とする2群へまとめ、住居は購入、賃借、それ以外に区分した。

次に位置情報を地図上に対応付け、道路網の最短経路から自宅―勤務先間と、両地点からそれぞれの最寄り地下鉄駅までの距離を求めた。最寄り駅を利用し、必要なら乗り換えると仮定している。自宅・勤務先の周囲半径500メートルについて、人口または雇用の密度、道路密度、土地利用の混合度も用意した。土地利用は住宅・商業・工業・交通・オープンスペースの5分類で、各分類の面積割合を使う。ただし、混合度を割合から求める式は提示本文で表示されておらず、計算を再現するための手順は確認できない。

車を保有するかは、個人単位の二項ロジットで分析した。これは投入した条件ごとに、車を保有する確率そのものではなく、その確率と非保有確率の比である「オッズ」がどう変わるかを推定する方法だ。続いて多項ロジットを使い、車を基準に徒歩・自転車・地下鉄・バスの各手段が選ばれる相対的な傾向を推定した。例えば勤務先側の駅距離の係数なら、ほかの投入変数を一定とみた場合に、その距離が長い人ほど車に対する地下鉄選択のオッズがどちらへ動くかを読む。これらは観測された条件を調整した関連の推定値であり、駅の新設や移転による変化を直接計算したものではない。

この研究の新しさ

都心の駅周辺に住みながら郊外にも通勤する長期居住者を取り上げ、自宅から駅までの距離と勤務先から駅までの距離を分けた点が特徴だ。本文は、勤務先が都心外にある回答者188人、都心内にある回答者286人を報告し、勤務先が分かる人のおよそ4割が都心から外へ通勤すると述べる。ただし、勤務先情報の欠損数とこれらの人数の合計は本文中で一致しないため、厳密な割合としては扱いにくい。車を持つ選択と、通勤で車を使う選択を併せて見る構成にも意義がある。

従来研究との違い

論文は、同じ調査で集めた郊外4地区について、研究チームによる別の分析結果と対比する。郊外の地下鉄周辺地区では車保有世帯が約33%で、都心の分析対象世帯について報告された約20%より高い。また郊外では、駅に近い地区の通勤の40%が地下鉄、遠い地区では9%だった。都心と郊外では駅までの距離などの条件が異なり、ここで示されるのは別分析との対比である。差の原因を特定する比較実験ではない。

結果と評価

都心の分析対象について、論文は262世帯中53世帯が車を保有すると報告する。車のある世帯では、ほぼ必ず家族の誰かが日々の通勤に使うという。二項ロジットでは、地下鉄への態度、世帯所得、住居の取得形態、勤務先から最寄り駅までの距離などと車保有に統計的な関連が見られた。一方、自宅から駅までの距離については有意な関連が確認されなかった。少なくともこの標本では、「自宅近くに駅があれば車を持たない」とは言えない。

多項ロジットでは、勤務先から駅まで遠いほど、車に対して地下鉄を選びにくい方向の関連が示された。通勤距離が長いほど徒歩・自転車・バスは車に対して選ばれにくい一方、地下鉄に同じ有意な関係は示されていない。勤務先周辺の土地利用混合度と徒歩の関連は、表では5%水準に達していない。態度や性別については、本文が述べる選択の方向と表の係数の符号が一致しない箇所があり、方向を確定的に解釈しない方がよい。

限界・注意点

著者は、都心の建築環境が似通っているため、環境指標の違いを捉えにくかった可能性を挙げる。また、自宅側の駅距離が車保有と有意に結び付かなかった理由として駅間隔や駅近住宅の価格を推測するが、その理由を実証した結果ではない。

編集上の留意点として、調査は都心3地区の一時点の観察データに基づく。投入変数で条件をそろえても、住まいや職場の選び方などによる交絡を取り除いたとは言えず、態度と車保有の時間的な順序も分からない。本文には外部標本での予測検証が示されていない。土地利用混合度の式が表示されず、人数の集計や一部の係数と文章にも不整合があるため、結果を他地域へそのまま広げることは避けたい。

現場への応用案

【編集上の提案】駅勢圏を紹介するときは、駅に近い住宅の数だけでなく、そこから通う職場の最寄り駅と、駅から職場までの移動も併記したい。都心発・郊外着という通勤の向きを示せば、同じ「駅近居住者」でも利用条件が違うことを伝えやすい。これは論文の問いを伝えるための構成案であり、施策の効果が実証されたという意味ではない。

現場で確かめるには

【編集上の導入時の検証案】郊外の雇用拠点と地下鉄を結ぶ施策を検討するなら、実施前後で自宅側・職場側それぞれの駅までの実際の移動時間、乗り換え、通勤手段、車利用を同じ方法で記録する。所得、転職・転居、他の交通サービスの変化も確認し、可能なら施策を実施しない類似地区と比較する。論文で見つかった距離と選択の関連が、接続改善後の行動変化にも当てはまるかを確かめるためだ。

解説は原文の要旨・本文の確認範囲に基づきます。AIで作成し、同じモデルで原文との照合を行っています。全記事の人手による校閲は完了していません。「現場への応用案」「現場で確かめるには」は編集上の検討案です。

← 解説の一覧へ原文PDFを読む ↗