ニューヨークの地下鉄は住宅開発に先行したのか――駅の増加と土地利用を追う
Developing Densely: Estimating the Effect of Subway Growth on New York City Land Uses
20世紀前半のニューヨークでは、地下鉄駅の増加より商業開発の増加が駅密度と結びつく一方、駅の増加と住宅密度には明確な関係が見られなかった。
この論文のポイント
- ニューヨーク市の4区について、敷地別の土地利用と地下鉄駅の開業年を1平方マイルの格子に集計した。
- 1910~1950年の回帰モデルでは、商業純密度の変化と駅密度に正の関係が見られた一方、駅密度の変化と住宅純密度には有意な関係が示されなかった。
- 結果は対象の格子と期間における統計的な関係であり、地下鉄建設の因果効果を示すものではない。
背景と課題
地下鉄が先に延びて市街地を生んだのか、既に開発が進んだ場所へ地下鉄が延びたのか。完成後の地図だけでは、その順序を判断しにくい。本論文は、地下鉄網が急速に拡大したニューヨーク市で、駅と住宅・商業用途の建築密度の関係を調べる。対象はマンハッタン、ブルックリン、クイーンズ、ブロンクスの4区で、地下鉄網につながらないスタテン島は含まない。
当時の地下鉄事業者は運行費用を運賃収入で賄っていた。著者は、開業直後から利用者を見込める地域が路線の選択に影響した可能性に着目し、「駅の増加が住宅開発に先行した」「土地開発が駅の増加に先行した」という二つの仮説を検討する。
研究の方法
入力は、市のPLUTO土地利用データにある敷地面積、用途別の床面積、建築年と、地下鉄駅ごとの開業年である。敷地と駅を1平方マイル(約2.6平方キロメートル)の格子に対応させ、建築年と開業年を使って年代別に集計する。住宅と店舗が同じ建物に入る場合は、両用途の床面積をそれぞれ数える。用途別の「純密度」は、格子内のその用途の床面積合計を敷地面積合計で割った値で、道路面積は分母に含まない。駅密度は1平方マイル当たりの駅数である。地下鉄網が最大に広がった時点でも駅がない格子は除外し、欠損値のある格子も分析から外す。市庁舎から各格子の中心までの距離も計算し、都心からの位置を表す変数とする。
まず、格子間で駅密度と用途別純密度を大小の順位に置き換え、スピアマンの順位相関を求める。これは同じ時点で駅の多い格子ほど建築密度も高いかを示す。次に、1910~1950年の格子別・時期別データで、駅、住宅、商業の各密度をそれぞれ目的変数とする三つの回帰モデルを推定する。説明変数には、目的変数の前期の密度、駅や用途別密度の期間中の変化、市庁舎からの距離、市全体の人口変化をモデルに応じて用いる。例えば駅密度のモデルでは、前期の駅密度を考慮した上で、商業純密度の変化と駅密度の関係を調べる。住宅密度のモデルでは駅密度の変化、商業密度のモデルでは駅密度と住宅密度の変化を調べる。
推定にはStataのxtpcseを用いる。係数の正負は、ほかの投入変数を考慮したときの関係の方向を示し、有意確率でその関係の統計的な確かさを検討する。出力は各モデルの係数と有意確率で、どの用途や駅の変化が別の密度と結びつくかを比べる。ただし本文の説明と表の「変化」の時点表記だけでは、変化量を予測時点より前に確定できたかを厳密には追えない。したがって、時間的な先行関係の解釈にも注意が要る。
この研究の新しさ
敷地ごとの土地利用記録を駅の開業年と結び、格子・年代別に集計して、地下鉄と開発のどちらが先行指標となるかを検討した点が特徴である。住宅と商業を分け、駅の有無だけでなく格子内の駅の密度を扱うことで、土地利用によって異なる関係を確かめている。
従来研究との違い
順位相関では、1930年の駅密度と商業密度の相関が0.58、住宅密度との相関が0.63で、同時点の結びつきは住宅のほうが強い。一方、回帰モデルでは、住宅純密度の変化と駅密度、駅密度の変化と住宅純密度に明確な関係は示されない。商業純密度の変化と駅密度、駅密度の変化と商業純密度には、それぞれ正の関係が示される。同時点の相関と、変化量を含むモデルの結果は区別して読む必要がある。
結果と評価
1910~1950年を対象とする三つの回帰モデルは、いずれも496観測を用いた。駅密度のモデルでは商業純密度の変化が正に関連し、本文記載の有意確率は0.038だった。市庁舎からの距離は負に関連した(0.030)。住宅純密度のモデルでは駅密度の変化との有意な関係は示されず、市全体の人口変化とは正の関係があった(0.015)。商業純密度のモデルでは駅密度の変化と正に関連した(0.025)。これらは対象の格子と期間における統計的な関係であり、駅の開設によって建築がどれだけ増えたかを示す値ではない。
限界・注意点
著者は、グレンジャー因果性という名称でも、分析が通常の意味での因果関係を直接検証するものではないと明記する。モデルは都市の発展を完全に予測する設計ではなく、雇用や産業の変化、自動車・バス、用途規制などを十分に含まない。過去の建築密度を再構成する土地利用データには、後年の改築による偏りもあり得る。また、駅のない格子を除いた分析であり、建築密度は人口や雇用の実数を表さない。前項で挙げた追加分析は、こうした限界を踏まえた編集上の検証案である。
現場への応用案
編集上の応用案として、駅が先にできた場所と、開発が進んでから駅が増えた場所を地図と年表で並べて紹介できる。住宅と商業を別々に示せば、「地下鉄が街をつくった」という一括りの説明を、場所と用途に即して検討できる。これは論文で実施された追加分析ではない。
現場で確かめるには
編集上の導入時の検証案として、別の都市に適用する際は、過去の建物の記録がどれだけ残るか、駅の移設や統合をどう扱うかを先に確認する。格子の大きさを変える、駅のない地区も含める、人口・雇用・用途規制・他の交通手段を考慮する、といった分析で関係の安定性を調べたい。これらは本論文の実施結果ではない。
解説は原文の要旨・本文の確認範囲に基づきます。AIで作成し、同じモデルで原文との照合を行っています。全記事の人手による校閲は完了していません。「現場への応用案」「現場で確かめるには」は編集上の検討案です。
