オランダの磁気浮上鉄道4案――地域の雇用増は全国の便益になるか
Integral Cost-Benefit Analysis of Maglev Rail Projects Under Market Imperfections
オランダの磁気浮上鉄道4案を市場のゆがみや地域間の移動まで含めて評価した論文は、追加的な経済便益を計上しても、全案の純現在価値が負になると報告する。
この論文のポイント
- オランダの磁気浮上鉄道4案を、直接交通効果と市場のゆがみなどによる追加効果を含めて評価した。
- 追加的な経済便益の対直接交通便益比は、3つの経済シナリオと4案で-1~38%だった。
- 基準シナリオでは、年4%の割引率による30年・50年の評価期間のいずれでも、4案すべての純現在価値が負だった。
背景と課題
交通事業の費用便益分析では、利用者の時間短縮や運営収支など、交通に直接関わる効果を数える。論文によれば、完全競争の閉鎖経済なら、便益が他の市場へ波及しても、その分を重ねて足す必要はない。しかし、企業の価格設定に競争上のゆがみがあり、地域ごとに失業や人手不足が異なり、国外との経済活動もある場合、直接効果だけでは全国の厚生を捉えきれない可能性がある。厚生とは、金銭収支だけでなく、人々が得る便益や負担を含めた社会的な価値を指す。
対象は、西部の大都市圏ランドスタットの4都市を結ぶ内回り・外回りと、スキポール空港付近から北部フローニンゲンへ向かう北西経由・南東経由の計4案である。著者らは各案を整備しない場合と比べ、全国の費用と便益に加え、就業人口や労働需要がどの地域へ移るかを調べた。
研究の方法
分析は主に自治体を単位とし、穏やかな長期成長を想定する「European Co-ordination」シナリオを基準に、4案を一つずつ比較する。出発点は、人口と雇用の地域分布を固定した交通モデルによる、2020年の整備なし・整備ありの所要時間である。主な変数は、地域別の勤務地、就業人口、労働需要、通勤時間で、企業側の計算には輸送費の変化も用いる。別々のモデルを接続する際は、前段で求めた変化を次段の入力とし、同じ変化を二度推計しない。
まず通勤・居住地選択モデルに基準の勤務地分布を与え、整備なしと整備ありの通勤時間でそれぞれ居住地分布を計算する。両者の差が、所要時間の短縮に伴う住宅目的の移住である。並行して、新経済地理モデル――輸送費が企業間取引、製品価格、立地に及ぼす影響を扱うモデル――では、就業人口を固定し、整備なし・ありの労働需要の差を求める。次に、この需要変化を通勤・居住地選択モデルへ渡し、整備後の所要時間を同じに保ったまま勤務地の変化による移住を計算する。この労働需要に反応する移住は高学歴層に限り、低・中学歴層は移動しないと仮定する。2種類の移住を足し、地域間産業連関モデル――地域間の生産・消費のつながりを扱うモデル――で、移住者の消費に伴う労働需要を求める。総労働需要の変化は、輸送費による変化と消費による変化の和である。著者らは反復による高次の効果を比較的小さいとして、ここまでの一次効果を採用した。
さらに地域別労働市場を、働き手が余る地域と求人を満たせない地域に分け、需要増が雇用増になるのか、欠員や産業間の雇用移動になるのかを区別して評価する。時間便益は、移動区間・目的・交通手段ごとに、整備前後の旅客数の平均に短縮時間と時間価値を掛けて合計する「半分の法則」で求める。最後に、直接便益と企業側モデルの消費者便益との重複を控除し、別途推計した国際的な労働需要の移動、貨幣換算できる環境効果、投資・運営費などを合わせて純現在価値を算定する。各基礎モデルの推定式や全パラメータは本文に示されていない。
この研究の新しさ
特徴は、直接交通便益に一律の率を掛けて間接便益とするのではなく、製品市場の競争、居住・雇用の再配置、地域別の労働需給、国外からの労働需要の移動を分けて扱う点にある。同じ産業の賃金が全国一律でも、失業地域と人手不足地域では、労働需要増の厚生上の意味が異なる。また、企業側モデルが算定する消費者便益には直接の交通便益も含まれるため、その分を控除して二重計上を避けている。
従来研究との違い
比較の軸は、各案を整備しない基準シナリオと、直接交通効果を中心とする従来型の評価である。3つの経済シナリオにおける追加的な経済便益の対直接交通便益比は、大都市圏内の2案で-1~8%、大都市圏と北部を結ぶ2案で32~38%だった。これは総便益の増減率ではなく、直接交通便益を分母とする比率である。路線が結ぶ地域や経済条件によって差があり、一律の上乗せ率は適切でないというのが論文の主張である。
結果と評価
基準の「European Co-ordination」シナリオで、2000年価格、2010年を基準とする年4%の割引率を用いた2010~2060年の純現在価値は、内回り-5億3200万、外回り-23億7400万、北西経由-28億8000万、南東経由-10億2000万ユーロだった。2010~2040年でも4案すべてが負である。北部の労働需要増は北西経由のほうが大きい一方、ランドスタットからの人口移動は南東経由のほうが大きい。地域政策上の効果と全国の費用便益は分けて読む必要がある。他方式の鉄道が常に優れる、あるいは磁気浮上鉄道一般が不適切だという結論ではない。
限界・注意点
【著者が述べる限界】住宅目的の移住は当時の住宅価格で計算し、需要増に供給が応じると仮定するため、規制の強い市場では過大推計の可能性がある。他方、通勤を許容する時間が延びれば過小推計にもなりうる。企業側モデルは規模・集積・イメージの効果を含まず、労働市場モデルは供給と需要の変化の相互作用を扱っていない。安全や自然環境など貨幣換算していない効果も残る。
現場への応用案
【編集上の提案】4案を図解するなら、「利用者の時間短縮」「人口・雇用の地域間移動」「市場のゆがみによる追加便益」を別の欄に置きたい。北部の雇用増を、そのまま全国の純便益に足せるかのような誤解を防げる。各案が狙う北部振興と大都市圏の交通改善も併記する。
現場で確かめるには
【編集上の検証案】別の事業への応用では、整備前後の所要時間・旅客数に加え、地域別の住宅供給制約、失業と欠員、運営費の前提を確認する。人口・雇用を固定した推計と再配置を反映した推計を並べ、直接便益との重複控除を点検したうえで、住宅供給の想定、割引率、評価期間を変えた場合の結論も示したい。
解説は原文の要旨・本文の確認範囲に基づきます。AIで作成し、同じモデルで原文との照合を行っています。全記事の人手による校閲は完了していません。「現場への応用案」「現場で確かめるには」は編集上の検討案です。
