在宅勤務が増えると、朝の通勤と日中の移動はどう変わるか
Investigating the impacts of telecommuting on the spatial, temporal, and modal distribution of travel using an agent-based transport simulation model
カナダ・オカナガン地域の交通シミュレーションでは、在宅勤務者の割合が高いケースほど通勤が減り、日中の私用移動が増えると予測された。
この論文のポイント
- オカナガン地域の17歳以上20万5681人を対象に、典型的な平日24時間の活動と交通流をシミュレーションした。
- 在宅勤務率を基準の10%から25%、50%へ上げたケースでは、通勤が減り、日中の仕事・通学以外の移動が増えると予測した。
- 主要道路17区間の時間交通量について、観測値とシミュレーション値の相対差は平均30.9%だった。
背景と課題
在宅勤務によって朝の通勤が減っても、買い物や私用の外出まで減るとは限らない。本研究は、在宅勤務者の割合を変えたとき、典型的な平日の移動が24時間のどの時刻に、どこで、どの交通手段で生じるかを調べる。対象はカナダ・ブリティッシュコロンビア州のオカナガン地域である。
著者らによれば、従来の四段階交通需要推計は移動を一件ずつ扱い、時間帯や地域、人口をまとめて計算するため、同じ人が一日に行う活動同士のつながりを表しにくい。在宅勤務のように移動時刻にも影響する施策を検討するには、個人の活動予定と交通網の状態を結びつける必要がある。
研究の方法
入力の単位は個人・世帯、外出活動、移動、活動場所、道路区間である。2016年国勢調査に基づく17歳以上20万5681人の合成人口に、2018年オカナガン交通調査の8632人分の移動日誌、区画単位の活動場所、土地利用、交通施設、道路・公共交通網を組み合わせる。合成人口は、国勢調査などの属性分布に合わせて作った仮想の個人・世帯を指す。まず小地域別の分布と年齢などから就業・通学状態を割り当て、在宅勤務者、通勤者、非就業者、対面通学者、オンライン通学者に分ける。基準ケースでは就業者の10%を在宅勤務者とする。次に移動日誌で観測された分布から、各人の外出活動の種類と回数を生成し、活動の種類と集団に応じた分布から所要時間を抽出する。
各活動の目的地、出発時刻、移動手段を順に予定表へ組み込む。在宅勤務者、通勤者、非就業者の目的地には混合ロジットを用いる。候補地ごとの所要時間や個人・世帯、周辺環境の属性を説明変数とし、その係数から選択確率を計算する。係数のばらつきも確率計算に含める。目的地候補の選びやすさをまとめたログサムを、出発時刻と移動手段の組み合わせを選ぶ交差ネスト型ロジットへ渡す。これにより、行ける場所の違いと、時刻・手段の選択肢間の類似性を確率に反映する。学生には活動内容に応じた別のモンテカルロ法を使う。初回の計算では自動車の所要時間を観測移動の平均である15分に置き、得られた活動場所と順序を次の計算へ戻す。ただし、本文は選択モデルの詳しい推定手順を別稿に委ねており、反復の停止条件も示していない。
活動が重なれば仕事・学校を優先し、活動時間の短縮、空き時間への移動、必要な場合の削除によって一日1440分以内の予定表にする。これを個人単位の交通シミュレーターMATSimへ渡す。道路網で移動を実行し、各人の活動の効用と移動の効用を足した得点を計算して、経路を組み直す処理を反復する。得られた交通流と活動分布を、在宅勤務率10%、25%、50%のケース間で比べる。
この研究の新しさ
著者らが示す特徴は、人口集団ごとに平日24時間の活動を生成し、目的地と出発時刻・移動手段の関係を組み込んでから、動的な交通網で移動を再現する点にある。在宅勤務者を単に通勤しない人として扱わず、私用活動の時刻や行き先も変わり得る集団として扱う。もっとも、こうした選択構造そのものの推定結果の詳細は本文で参照する別稿に委ねられている。
従来研究との違い
論文が挙げる既存の活動ベースモデルには、目的地、出発時刻、移動手段を独立に決めるものや、就業者の中で在宅勤務者と通勤者の行動差を明示的に扱わないものがある。本研究は三つの選択を関連づけ、集団別の予定表を交通網に流す構成を採る。ただし、既存モデルと同じデータ・条件で予測精度を直接比べた結果は本文にない。この構成によって精度が向上したとまでは言えない。
結果と評価
需要モデルの調整には2018年の移動調査を使い、別途、2016年の通勤統計と2019年の道路交通量で結果を確かめた。通勤時の自動車運転の割合はシミュレーション83%、観測82%である。一方、主要道路17区間のピーク時・非ピーク時の時間交通量では、観測値とシミュレーション値の相対差が平均30.9%、中央値26.3%だった。通勤の手段別割合が近いことだけで、各道路の交通量まで高精度に再現したとは言えない。
在宅勤務率が基準の10%から25%、50%へ高まるケースでは、通勤移動が減り、レクリエーションや買い物など仕事・通学以外の移動が増えると予測された。50%ケースのレクリエーション移動は基準比約24%増、車両総走行距離は基準の225万9000 kmから184万4000 kmへ減少する。朝のピークは弱まり、日中の移動が増える。ケロウナの中心部付近では仕事の活動地点が減る一方、私用活動地点が増える分布も示された。いずれも設定したケースの予測であり、在宅勤務拡大後に実測された変化ではない。
限界・注意点
著者らは、典型的な平日一日の横断的な移動日誌では、週内の在宅勤務日と出勤日の使い分けや、在宅勤務開始後の長期的な行動変化を捉えられないと述べる。また、重複した活動を規則に従って短縮・移動する処理は、活動回数、移動距離、交通手段の分布に影響し得る。在宅勤務を選ぶ要因についても、職業以外の居住地や勤務地などを十分に扱っていない。したがって、オカナガン地域の設定による平日一日の予測を、他地域や長期の実績へそのまま広げることはできない。
現場への応用案
編集上の応用案として、在宅勤務施策の説明資料を「朝の通勤」「日中の私用移動」「都市中心部の活動地点」の三つの視点で構成できる。通勤削減と私用移動増加を同じ資料に示し、数値や図には在宅勤務率10%・25%・50%というケース条件と、シミュレーションの予測値であることを添える。
現場で確かめるには
編集上の導入時の検証案として、対象地域で在宅勤務日と出勤日を区別できる一週間以上の移動日誌を集め、曜日による違いと時間経過に伴う変化を確認する。さらに、中心部と住宅地の時間帯別交通量、公共交通利用、目的別移動を照合したい。道路区間ごとの誤差も調べ、論文で示された平均30.9%の交通量誤差が、検討する施策の判断にどう影響するかを確かめる。
解説は原文の要旨・本文の確認範囲に基づきます。AIで作成し、同じモデルで原文との照合を行っています。全記事の人手による校閲は完了していません。「現場への応用案」「現場で確かめるには」は編集上の検討案です。
