公共交通の徒歩圏と社会経済的な格差――オーストラリア5都市の比較
Spatial accessibility of public transport in Australian cities: Does it relieve or entrench social and economic inequality?
2011年のオーストラリア5都市では、社会経済的に不利な地域が公共交通へのアクセスに乏しい郊外に集まる傾向がある一方、優位な地域と公共交通の関係は都市によって異なった。
この論文のポイント
- 2011年のオーストラリア5都市で、小地域の社会経済的指標と公共交通の居住者カバー率・30分到達圏指標を重ね合わせた。
- 社会経済的に不利な地域が、公共交通の利用しやすさに乏しい中・外縁部に集まる傾向が見られた。
- 優位な地域の居住者カバー率が下位5分位より低い都市もあり、2つの交通指標の傾向は必ずしも一致しなかった。
背景と課題
オーストラリアの都市計画は、戦後の自動車移動を前提とした郊外開発から、土地利用と公共交通の連携を重視する方向へ移ってきた。しかし、路線を整備することと、交通を使いやすい場所に誰が住めるかは別の問題である。論文は、都心に近い地域の変化や郊外への居住地の広がりを背景に、社会経済的に不利な地域が公共交通でも不利な位置にあるのかを調べる。対象は2011年のメルボルン、シドニー、アデレード、ブリスベン、パースである。
研究の方法
分析の基本単位は、オーストラリア統計局の小地域区分SA1である。社会経済的状況には、2011年国勢調査に基づく地域指標SEIFAのうち、相対的な優位・不利を示すIRSADを使う。IRSADは所得、教育、雇用、職業、住宅などに関する25の調査項目を重み付けしてまとめた指標で、高い値ほど地域として優位である。著者らはSA1の値を用い、居住人口に基づいて各都市の人口を下位から上位まで5つの群に区分する。交通側には、公共交通の空間的な利用しやすさを測るSNAMUTSの指標を用い、SA1の区分と地理的に重ねる。個人の所得や実際の乗車履歴を照合する分析ではない。
最初に求める「居住者カバー率」は、一定以上の運行がある公共交通の徒歩圏に住む人の割合である。対象となる鉄道・フェリーは週7日運行し、平日10~15時には少なくとも30分間隔であることが条件となる。バス・路面電車には、同じ平日時間帯に少なくとも20分間隔、土日・祝日の日中に少なくとも30分間隔という条件を課す。条件を満たす駅・フェリー乗り場の半径800メートル以内、またはバス・路面電車の路線沿い両側400メートル以内をカバー範囲とする。都市全体では範囲内の居住者数を都市人口で割り、5分位別には範囲内に住む当該群の人数をその群の都市内人口で割る。雇用はこの率の集計対象に含めない。
続いて使う「30分到達圏指標」は、ある基準地点から公共交通で30分以内に届く都市圏の居住者と雇用の割合を概算した値である。運行速度・頻度、ネットワークの密度、居住者や雇用の立地が値に関わる。著者らは都市内で定めた活動拠点の徒歩圏や沿線圏に入るSA1へ、対応する到達圏の値を割り当てる。圏域が重なる場合は、その重なり方に対応する値を使う。そのうえで、カバー範囲内に居住人口のあるSA1について、都市全体およびIRSADの5分位別にSA1間の平均を取り、カバー率と併せて比較・地図化する。この平均は人口で重み付けした全住民の平均ではない。本文は30分到達圏の内部的な経路計算式や探索手順を示しておらず、その部分の再現方法は特定できない。
この研究の新しさ
研究の特徴は、既存のSNAMUTS指標を使い、公共交通が住まいの近くにあるかという「カバー率」と、カバー範囲内から30分でどれだけの居住者・雇用に届くかという「到達圏」を分けて、地域の社会経済的分布と照合した点にある。駅の徒歩圏に住んでいても、郊外の路線末端と都心近くでは到達できる活動の規模が異なり得る。著者らは数値に加えて上位・下位5分位の地理的配置を読み、都市ごとの特徴を記述している。
従来研究との違い
メルボルンでは、上位5分位の居住者カバー率は61%、下位は41%で、カバー範囲内のSA1の30分到達圏平均もそれぞれ9.5%、4.3%だった。一方、シドニーのカバー率は上位45%、下位55%、アデレードでは上位44%、下位53%と、いずれも上位が低い。ただしアデレードの到達圏平均は上位10.2%、下位7.0%である。近くに基準を満たす路線がある割合と、その路線から届く範囲は同じ傾向を示すとは限らない。論文は、シドニーなどで優位な地域が水辺や丘陵といった景観上魅力のある場所にも立地することを、都市間の違いを読む手掛かりとしている。
結果と評価
5都市には、社会経済的に不利な地域が、公共交通の利用しやすさに乏しい中・外縁部にまとまる傾向が見られる。ただし、5分位と各指標の関係は一様ではない。ブリスベンの下位5分位はカバー率26%、カバー範囲内の到達圏平均4.3%と、いずれも同市の5分位中で最も低い。パースでは到達圏平均が下位6.8%、上位12.0%である一方、カバー率は下位37%、上位29%だった。これらは2011年の地域分布の対応関係であり、公共交通の不足が社会経済的な不利を生んだという因果関係を検証した結果ではない。
限界・注意点
【著者が明示する対象範囲】社会経済的状況とアクセシビリティの変化を時系列で追う分析は、必要なデータ収集の規模から行っていない。【指標を読む際の注意】IRSADは個人の所得ではなく、地域の相対的な指標である。また、30分到達圏の表中の平均は、公共交通のカバー範囲内に居住人口のあるSA1を対象とする。徒歩圏外の住民を含めた都市全住民の平均的な到達性と解釈してはならない。
現場への応用案
【編集上の応用案】沿線開発を伝える際は、駅や路線の徒歩圏にある住宅の数だけでなく、そこから30分で届く居住者・雇用の規模と、その場所に住むための住宅の手頃さを分けて確認したい。論文も政策上の方向として、公共交通の改善を都市の集約化や手頃な住宅の確保と組み合わせる必要性を論じている。
現場で確かめるには
【編集上の導入時の検証案】別の都市で同様に点検するなら、運行する曜日・時間帯をそろえて基準を満たす路線を特定し、その徒歩圏内の居住人口を社会経済的な地域区分ごとに集計する。さらに、乗り換えを含む所要時間、郊外の雇用地への到達性、徒歩圏内の住宅費負担を現地データで確かめたい。整備前後を比べる場合は、交通の変化だけでなく、人口移動や住宅供給の変化も区別して調べる必要がある。これらは本論文で実施した追加検証ではない。
解説は原文の要旨・本文の確認範囲に基づきます。AIで作成し、同じモデルで原文との照合を行っています。全記事の人手による校閲は完了していません。「現場への応用案」「現場で確かめるには」は編集上の検討案です。
