鉄道運賃は移動費用をどれだけ賄うか――BARTとMARTAの駅・時間帯別分析
Inequitable inefficiency: A case study of rail transit fare policies
鉄道の利用者が運賃で賄う費用の割合は、同じ路線網でも移動する場所と時間によって異なる。
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この論文のポイント
- BARTとMARTAの2019会計年度の鉄道を対象に、実際の運賃収入を移動に割り当てた費用と比較した。
- 両事業者とも平日ピーク時の費用回収率が全時間帯で最も高く、平日の通常時間帯を上回った。
- 郊外側の駅・リンクでは費用回収率が低い傾向がある一方、所得構成との直接の関連は一貫しなかった。
背景と課題
運賃の公平性は、支払額や1キロメートル当たりの運賃で論じられがちだ。しかし、同じ距離でも、利用者が多い区間では運行や設備の費用を多くの人で分け合える。本研究は「費用回収率」――移動に割り当てた費用のうち、運賃で賄われる割合――から、補助の分布を調べる。費用と運賃の差を利用者への「経済的な補助」と捉えており、税金から事業者への支出そのものを利用者に配分した分析ではない。
対象は、距離別運賃を基本とするサンフランシスコ湾岸のBARTと、均一運賃を基本とするアトランタのMARTAの鉄道である。分析期間は2018年7月から2019年6月までの2019会計年度。郊外側やピーク以外の時間帯の移動は、費用に対する支払割合が低いのか。さらに、その分布は駅を使う人々の所得・人種構成とどう関係するのかを問う。
研究の方法
空間分析の基本単位は、出発駅と到着駅の組であるODペアで、往復は同じ組として扱う。事業者の乗車記録から、出発駅・到着駅・入場時刻・実際の支払運賃を使い、OD別の利用回数と平均支払運賃を求める。駅間の線路を「リンク」と呼び、通過経路も費用計算に用いる。BARTでは本線以外だけを使う乗車を除き、本線以外も一部使う乗車では本線リンクの費用だけを数える。費用は著者の先行研究で配分した値を引き継ぐ。人件費や、車両などの資産費用を年換算した額を含む一方、建設・土地取得などの埋没費用は含まない。提示本文には、この先行研究で費用を駅・リンク・時間帯へ配分した詳細手順はないため、配分過程そのものは再現できない。
計算ではまず、ODの出発駅、到着駅、通過する各リンクの「乗客1人当たり費用」を足し、そのODの乗車費用とする。平均支払運賃を乗車費用で割った値がODの費用回収率で、低いほど費用のうち運賃で賄われない割合が大きい。次に、各駅を発着するOD、各リンクを通過するODについて、それぞれの費用回収率をOD別利用回数で重み付けして平均する。得られるのは駅やリンク単体の収支ではなく、そこを使う乗車全体の「費用回収率プロフィール」だ。時間帯では別に、時間帯ごとの運賃収入合計を、配分済みの費用合計で割る。
OD間の違いを調べる際は、ODをそれぞれ1組として扱う通常の最小二乗回帰を行う。目的変数は費用回収率の対数、説明変数は線路に沿った乗車距離の対数と、OD両端駅から基準駅までの直線距離を平均した値の対数である。後者は都心からの離れ具合を表し、基準駅はBARTがWest Oakland、MARTAがFive Points。各係数は、もう一方の距離を一定としたとき、距離が割合として変わると費用回収率が割合としてどう変わるかを示す関連指標であり、因果効果ではない。さらに駅・リンクのプロフィールと立地・利用傾向、駅のプロフィールと調査で得た利用者属性の割合、時間帯の費用回収率と利用量の相関を調べる。MARTAの属性調査は、回答が対象年度の駅利用数に合うよう重み付けする。
この研究の新しさ
運賃だけでなく、利用者間で分け合う費用と対比したうえで、OD、駅、リンク、時間帯を区別する点が特徴だ。たとえば都心のリンクは、都心内の短い乗車にも郊外発着の乗車にも使われる。通過するODを利用回数で重み付けすれば、この重なりを駅・リンクのプロフィールに反映できる。また、地域を「都心か郊外か」の二択にせず、ODの両端が中心からどれだけ離れているかを連続的に測っている。
従来研究との違い
論文が紹介する先行研究には、設備費を考慮するとピーク時の補助が大きいとするものがある。本研究の2事業者では逆に、平日ピーク時の費用回収率が最も高かった。著者は、費用配分の方法、主としてバスを扱った先行研究との交通手段の違い、ピーク時に運行量を増やす程度、時間帯区分の細かさを、相違の理由の候補に挙げる。ただし、BARTとMARTAは運賃方式だけでなく路線網や移動の集中度も異なる。2者の差を運賃方式だけの効果とは解釈できない。
結果と評価
平日ピーク時の費用回収率はBARTで74.72%、平日の通常時間帯で34.76%だった。MARTAではそれぞれ34%と18.21%である。ピーク時はBARTで費用総額が最大、MARTAでも平日の通常時間帯とほぼ同額だが、両事業者とも運賃収入が多く、費用回収率は全時間帯で最高となった。費用総額から運賃収入を引いた金額でも、平日ピーク時の補助は平日の通常時間帯より小さい。
空間面では、郊外側の駅やリンクを使う乗車ほど費用回収率が低い傾向があり、その地域差はBARTでより大きい。ただしMARTAでは、OD単位の関連と、利用回数で重み付けした駅・リンク単位の関連が一致しない場合がある。駅別属性との相関では、BARTでアジア系・太平洋諸島系、ヒスパニック系の利用者割合が高い駅ほど費用回収率が低く、非ヒスパニック系白人の割合とは正の関連があった。MARTAでは人種構成との統計的に有意な相関は見られず、所得との関連も両網で一貫しない。いずれも駅単位の関連であり、個々の乗客が受けた補助額を属性別に推定した結果ではない。
限界・注意点
【著者が述べる限界】駅の属性構成から個人の受益は判定できず、利用者属性と個々のODを結び付けたデータもない。週末利用者の属性調査がなく、時間帯別の社会経済的影響は評価していない。運賃・サービス変更への需要反応、混雑による不便、ネットワーク全体で費用を分け合う効果も分析に組み込んでいない。【提示本文について】中間部分が省略されているため、そこにある回帰結果の数値は扱わない。先行研究の費用配分も、提示本文だけでは詳細を検証できない。
現場への応用案
【編集上の提案】運賃改定を伝える際は、値上げ額や距離当たり運賃だけでなく、「その乗車の費用を運賃がどれだけ賄うか」も示す。駅と時間帯を分けて見れば、均一運賃か距離別運賃かという二択だけでは見えない論点を伝えられる。
現場で確かめるには
【編集上の検証案】別の鉄道で試すなら、実際の支払運賃、OD別利用回数、通過経路、配分可能な費用を同じ年度でそろえ、費用配分の前提を公開する。運賃変更を検討する段階では、需要の変化、混雑、低所得層のアクセスも別途確かめたい。現在の費用回収率だけでは、都心やピーク時の運賃を下げるべきだとは決められない。
解説は原文の要旨・本文の確認範囲に基づきます。AIで作成し、同じモデルで原文との照合を行っています。全記事の人手による校閲は完了していません。「現場への応用案」「現場で確かめるには」は編集上の検討案です。
